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初心者必読!脳が揺れるどんでん返しミステリー7選

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越智
目次
1. 『十角館の殺人』綾辻行人 (1987年) 2. 『イニシエーション・ラブ』乾くるみ (2004年) 3. 『告白』湊かなえ (2008年) 4. 『ハサミ男』殊能将之 (1999年) 5. 『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成 (2021年) 6. 『七回死んだ男』西澤保彦 (1995年) 7. 『カラスの親指』道尾秀介 (2008年) 【一歩進んだ楽しみ方】小説ならではの騙しの芸術「叙述トリック」 まとめ:騙されたあなたへ、次なる一冊を

物語の最後のページをめくり、本を閉じる。そして、しばし呆然と宙を見つめる――。それまで信じていた世界が、足元からガラガラと崩れ落ちるような感覚。頭の中で、物語の全てのピースがカチリ、カチリと音を立てて再構築され、全く新しい景色が広がる。この、脳が揺さぶられるような知的興奮と快感こそが、「どんでん返しミステリー」が持つ抗いがたい魅力です。

優れたどんでん返しは、単なるサプライズではありません。物語の冒頭から巧妙に張り巡らされた「伏線」が、最後の最後に見事に「回収」されることで、驚きと共に深い納得感をもたらす、計算され尽くした芸術なのです 。  

特にミステリー初心者のあなたにとって、この体験は格別なものになるでしょう。これから紹介する7冊は、いずれもミステリーの入り口として最適でありながら、そのどんでん返しの切れ味は一級品。あなたの読書体験に、忘れられない衝撃を刻み込むことをお約束します。もちろん、この記事は厳格な【ネタバレなし】。安心して、騙される準備を始めてください。

1. 『十角館の殺人』綾辻行人 (1987年)

この一行で、あなたの世界は反転する。新本格ミステリーの金字塔。

九州の沖に浮かぶ孤島・角島(つのじま)。半年前に凄惨な四重殺人が起きたこの島には、十角形の奇妙な館が建っています。大学のミステリ研究会に所属する7人の男女は、合宿のためにこの「十角館」を訪れます。外界との連絡手段はなく、次に船が来るのは一週間後。典型的な「クローズド・サークル」の状況下で、メンバーが一人、また一人と殺されていくのです 。  

1987年の刊行以来、日本のミステリー界の流れを大きく変えた「新本格ムーブメント」の幕開けを告げた記念碑的作品であり、ミステリーの王道要素がふんだんに盛り込まれているため、初心者でも非常に読みやすいのが特徴です 。本作の衝撃は、ミステリーファンの間で伝説的に語り継がれる「あの一行」に集約されています 。それは「叙述トリック」と呼ばれる手法を駆使し、読者が小説というメディアに対して抱いている根本的な信頼や思い込みそのものを利用した、壮大な罠。衝撃のあまり、多くの読者が呆然とし、そしてすぐに最初のページへと戻り、作者がいかに巧妙に自分たちを騙していたかを確認したくなるはずです 。  

2. 『イニシエーション・ラブ』乾くるみ (2004年)

ただの恋愛小説?――最後の二行ですべてが覆る、伝説の一冊。

物語は1980年代後半の静岡が舞台。冴えない男子大学生の「僕」(たっくん)は、合コンで歯科助手のマユと出会い、恋に落ちます。二人の甘酸っぱい恋愛模様が描かれるSide-A。そして、就職して東京へ転勤になった「僕」と、静岡に残ったマユとの遠距離恋愛の行方を描くのがSide-B。物語は、誰もが経験するような、ありふれた恋の始まりと終わりを綴っているかに見えます 。  

ミステリーを普段読まない人にこそ、まず手に取ってほしい一冊です。軽快な文体で描かれる青春恋愛ストーリーは、ジャンルを問わず誰もが楽しむことができます 。ただ、ごく普通の恋愛小説として物語に没入すればするほど、最後に待ち受ける衝撃は絶大なものになります。本作の代名詞は、あまりにも有名な「最後の二行」 。この二行を読んだ瞬間、それまで読んでいた甘い恋愛物語は、全く別の貌(かお)を持つミステリーへと変貌します。読後、必ずやあなたは本を片手に最初からページをめくり直し、作者の仕掛けた罠の数々を確認したくなるに違いありません 。  

3. 『告白』湊かなえ (2008年)

静かな狂気が、あなたの倫理観を揺さぶる衝撃の復讐劇。

中学校の終業式の日、女性教師・森口悠子のホームルームでの「告白」から物語は始まります。彼女は静かな口調で、先日事故死とされた一人娘が、実はこのクラスにいる二人の生徒によって殺されたのだと語り始めます。そして、法では裁かれない彼らに対し、自分なりの方法で復讐を遂げたことを宣言するのです。この衝撃的な独白を皮切りに、事件に関わった人物たちの視点が次々と入れ替わり、それぞれの「告白」を通して、事件の恐るべき真相が多層的に暴かれていきます 。  

各章で語り手が変わる独白形式で構成されており、非常に読みやすく、一度読み始めるとページをめくる手が止まらなくなるでしょう 。本作のどんでん返しは、一点のトリックによるものではありません。物語が進むにつれて、真実だと思っていた事柄が次々と覆され、登場人物に対する印象が180度変わっていく、構成そのものが巨大などんでん返しとなっています。それぞれの語り手は、自分に都合の良い真実を語る「信頼できない語り手」であり、読者はその主観的な告白の渦の中で、客観的な真実を見失っていきます 。  

4. 『ハサミ男』殊能将之 (1999年)

殺人鬼が、自らの模倣犯を追う。読者の常識を切り裂く傑作。

世間を震撼させている連続美少女殺人鬼、通称「ハサミ男」。彼は次のターゲットに狙いを定めますが、いざ犯行に及ぼうとした矢先、彼女が自分と全く同じ手口で殺されているのを発見します。自分の美学を汚す模倣犯の出現に憤慨した「ハサミ男」は、警察よりも先に真犯人を見つけ出すため、独自の調査を開始します 。  

「殺人鬼が探偵役」という設定自体が非常にユニークで、読者の興味を強く惹きつけます。そして、この作品の真骨頂であるどんでん返しは、叙述トリックの入門書としてこれ以上ないほど鮮やかです 。その罠は、読者が手に取った瞬間、つまり『ハサミ男』というタイトルを目にした時から始まっています 。読者が抱いていた固定観念や無意識のバイアスを逆手に取ったこのトリックは、まさに小説というメディアだからこそ可能な芸術です 。真相が明かされた時、あなたは自分がどれほど深く、そして気持ちよく騙されていたかに気づき、思わず唸ってしまうことでしょう。  

5. 『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成 (2021年)

全員、嘘つき。就職活動という究極の心理戦、最後に笑うのは誰だ?

成長著しいIT企業の最終選考に残った6人の大学生。彼らに与えられた課題は、「6人の中から1人の内定者を決める」というものでした。仲間だったはずの6人は、たった一つの席を奪い合うライバルとなります。議論が進む中、それぞれの過去の秘密を暴露する告発文が投下され、彼らの完璧に見えた仮面が次々とはがされていきます 。  

多くの人が経験する「就職活動」というリアルな舞台設定が、物語への没入感を高めます 。この物語の面白さは、一度きりのどんでん返しではなく、二転三転、四転五転する展開にあります。読者はそのたびに登場人物への印象を覆され、誰を信じればいいのか分からなくなります 。しかし、本当の驚きはその先に。それまで読者が「事実」だと思っていた数々の出来事が、実は一面的な解釈に過ぎなかったことが明らかになるのです。伏線がパズルのピースのように組み合わさっていく鮮やかさは、まさに圧巻の一言です 。  

6. 『七回死んだ男』西澤保彦 (1995年)

同じ一日を9回繰り返す。SF×本格ミステリーの奇跡的融合。

高校生の久太郎には、時々同じ一日が9回繰り返される「反復落とし穴」という不思議な体質がありました。ある日、その「落とし穴」にはまった久太郎ですが、その日に限って、莫大な遺産を持つ祖父が何者かに殺害されてしまいます。祖父を救うため、久太郎は残された8回のループを使い、犯人を見つけ出し、殺人を未然に防ごうと奔走します 。  

「タイムループ」というSF的な設定は、それだけでワクワクさせられます。ゲームのように何度もやり直しながら真相に近づいていく構成は、非常にエンターテインメント性が高く、ミステリー初心者でも飽きることなく楽しめます 。本作は、SFなどの非現実的な設定下で論理的な謎解きを行う「特殊設定ミステリー」の傑作です 。作者は、この「タイムループ」という特殊なルールそのものに、巨大なミステリーの仕掛けを施しています。最後に全てのループを通じての真相が明かされた時、一見無関係に見えた数々の出来事が一本の美しい論理で結ばれ、その設計の見事さに鳥肌が立つことでしょう 。  

7. 『カラスの親指』道尾秀介 (2008年)

人生を賭けた大勝負。詐欺師たちが仕掛ける、感動のどんでん返し。

過去の事件が原因で詐欺師として生きる中年男のタケと、その相棒のテツ。二人の生活に、ある日、スリの少女まひろとその仲間たちが転がり込んできます。それぞれが闇金業者にまつわる辛い過去を背負っていた彼らは、やがて疑似家族のような絆で結ばれていきます。そして、過去に決着をつけるため、闇金業者を相手に一世一代のコンゲーム(信用詐欺)を仕掛けることを決意します 。  

本作は殺人事件が中心ではない「コンゲーム小説」であり、cleverな騙し合いの計画にワクワクしながら読み進めることができます。ミステリーでありながら、読後には心温まる感動が残るヒューマンドラマとしても秀逸です 。この物語のどんでん返しは非常に多層的で、読者がハラハラしながら見守る詐欺計画自体が、実はもっと大きな目的を達成するための壮大な舞台装置の一部に過ぎなかったという驚愕の事実が最後に明かされます 。全ての伏線が回収された時、物語は単なる痛快なコンゲーム小説から、愛と再生の物語へと昇華するのです 。  

【一歩進んだ楽しみ方】小説ならではの騙しの芸術「叙述トリック」

今回紹介した作品の中には、『十角館の殺人』『イニシエーション・ラブ』『ハサミ男』のように、「叙述トリック」という手法が使われているものが含まれます。

「叙述トリック」とは、物語の「語り」そのものを使って読者を騙すテクニックのことです 。このトリックの核となるのが、「信頼できない語り手」という存在です 。例えば、語り手が記憶喪失だったり、精神的に不安定だったり、あるいは意図的に嘘をついていたりします 。読者は通常、「語り手は真実を語るものだ」という暗黙の了解のもとに物語を読み進めます。叙述トリックは、その読者の固定観念を逆手に取ることで、絶大な効果を発揮するのです 。  

実は、ミステリー初心者であることは、この叙述トリックを最大限に楽しむ上で、最大の武器になります。経験豊富なファンは常に疑いながら読みますが、初心者は素直に物語の世界に没入できます。だからこそ、最後の最後でその信頼が裏切られた時の衝撃は、計り知れないものになるのです。

まとめ:騙されたあなたへ、次なる一冊を

見事に騙されたあなた、おめでとうございます。それは作者の術中に、まんまとハマったという証であり、ミステリー読者にとって最高の賛辞です。どんでん返しミステリーのもう一つの楽しみは、「再読」にあります。真相を知った上で物語を読み返すと、初読では気づかなかった無数の伏線を発見することができます 。  

今回紹介した7冊で、どんでん返しの魅力に目覚めたのなら、あなたのミステリーの旅はまだ始まったばかり。ミステリー小説の世界は、あなたの知的好奇心を刺激し、常識を揺さぶる無数の「罠」で満ちています。さあ、ページをめくり、次なる華麗な騙しの世界へ、足を踏み入れてみてください。

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後味の悪さが癖になる「イヤミス」の世界
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