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なぜK-POPは加速し、J-POPは失速するのか

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はじめに:岐路に立つ二つのポップミュージック K-POPの圧倒的な世界戦略 音楽を超えた「IPビジネス」への進化 完成された「製品」としてのアーティスト J-POPの成功はなぜ「蜃気楼」なのか アニメという強力すぎる「松葉杖」 世界から取り残された「ガラパゴス市場」 結論:J-POPに未来はあるのか

近年のJ-POPの世界的ヒットは、そのほとんどがアニメ人気に依存した一過性の現象に過ぎません。一方でK-POPは、緻密な世界戦略と完成されたアーティスト像を武器に、持続的な成長を続けています。本記事では、この差が生まれる構造的な問題を「マーケティング」と「アーティストの質」の観点から分析し、J-POPがグローバル市場で再び輝くことの難しさを解説します。

はじめに:岐路に立つ二つのポップミュージック

先日、K-POPとJ-POPの基本的なビジネスモデルの違いについて論じましたが、その後の世界の音楽市場は、両者の差がさらに拡大している現実を浮き彫りにしています。

一方では、韓国のK-POPが凄まじい勢いで世界を席巻し続けています。例えば、Stray Kidsは2022年以降にリリースした6作品すべてで米ビルボードのアルバムチャート1位を獲得するという快挙を成し遂げました 。これは単なる偶然のヒットではなく、計算され尽くしたグローバル戦略が着実に実を結んでいる証拠です。  

他方で、日本のJ-POPも近年、世界的な注目を集めているように見えます。特に2023年、YOASOBIの「アイドル」はアニメ『【推しの子】』の主題歌として世界的な現象となり、日本語楽曲として初めて米ビルボードのグローバルチャート(米国除く)で1位を獲得しました 。一見すると、J-POPの国際的な復権を予感させる華々しい成果です。  

しかし、この表面的な成功の裏には、J-POPが抱える根深い構造問題が隠されています。本稿では、なぜK-POPが加速を続け、J-POPへの関心が失速しているように見えるのか、その根本的な原因を深掘りします。結論から言えば、J-POPの近年の成功は、自立した音楽の力というよりは、アニメという強力な追い風に支えられた「蜃気楼」であり、その輝きは持続可能とは言えません。

K-POPの圧倒的な世界戦略

K-POPの成功は、偶然の産物ではありません。それは、世界市場を制覇するために設計された、極めて戦略的なシステムの結果です。

音楽を超えた「IPビジネス」への進化

K-POP産業の強さの根源は、音楽を売ることから、アーティストという「知的財産(IP)」を多角的に収益化するビジネスモデルへと、いち早く舵を切った点にあります 。  

例えば、大手事務所のSMエンターテインメントは、アルバムや音源といった直接収益の割合を減らし、グッズ販売やライセンス事業などの「間接収益」の割合を2025年までに40%へ高める予測を立てています 。これは、音楽を単なる商品ではなく、より大きな経済圏を生み出すためのエンジンと捉える先進的な視点です。  

BTSを擁するHYBEはさらに野心的で、「マルチホーム、マルチジャンル」戦略を掲げ、米国や日本に続き、巨大市場インドにも拠点を設立する計画を進めています 。これは単なる楽曲の輸出ではなく、K-POPの育成・制作システムそのものを世界各地に移植し、現地の才能を育てていくという、真のグローバル企業化を目指す動きです。  

このビジネスモデルの強靭さは、市場の変動に対する耐性の高さに表れています。2024年、K-POPの韓国内におけるCDアルバムの売上は、10年ぶりに大幅な減少を記録しました 。しかし、これは「K-POPの危機」を意味しません。むしろ、CD売上に依存するビジネスモデルからの脱却が成功している証拠であり、国内市場の成熟をバネに、さらにグローバル展開を加速させる要因となるでしょう。  

完成された「製品」としてのアーティスト

K-POPのもう一つの強みは、徹底した「練習生(トレイニー)システム」にあります。数年間にわたる厳しいトレーニングを経て、歌、ダンス、語学、メディア対応まで完璧にこなす「完成品」としてアーティストをデビューさせるこの手法は、J-POPの育成モデルとは一線を画します 。  

J-POPアイドルが「未完成の魅力」やファンと共に成長する過程を重視するのに対し、K-POPはデビュー初日から世界水準のパフォーマンスを提供できる即戦力を市場に送り込みます 。  

もちろん、このシステムにも課題はあります。2024年の米音楽フェス「コーチェラ」に出演したLE SSERAFIMのパフォーマンスは、そのエネルギッシュなステージングが欧米メディアから評価される一方、生歌の不安定さがオンラインで厳しい批判を浴びました 。  

しかしこの事例は、K-POPが定義する「品質」が何かを逆説的に示しています。それは、個々の歌唱技術の完璧さよりも、ビジュアル、ダンス、ステージ全体を統合した「総合的なスペクタクル(見世物)」としての完成度を最優先する戦略です。無限の選択肢があるグローバル市場において、この「総合力」こそが、多くのJ-POPアーティストに欠けている、観客を瞬時に惹きつける力となっているのです。

J-POPの成功はなぜ「蜃気楼」なのか

YOASOBIやCreepy Nutsの世界的ヒットは喜ばしいニュースですが、残念ながらこれはJ-POP全体の復活を意味するものではありません。むしろ、その構造的欠陥を浮き彫りにしています。

アニメという強力すぎる「松葉杖」

近年のJ-POPの国際的ヒットは、ほぼ例外なくアニメタイアップから生まれています。Spotifyのデータによれば、海外でストリーミングされる日本音楽の実に50〜60%がアニメ関連楽曲と推定されています 。2023年に世界の音楽市場で日本語楽曲のシェアが1.3%から2.1%に増加しましたが、この成長の大部分はアニメを原動力としたヒットによるものです 。  

これは、J-POPが自力でグローバルな音楽ファンを開拓しているのではなく、巨大な「アニメファン」のコミュニティから一時的にリスナーを借りているに過ぎないことを意味します。その結果、楽曲は世界的に有名になっても、歌っているアーティスト自身の認知度はなかなか上がりません 。多くの海外リスナーにとって、アーティストは「あのアニメの曲の人」という認識に留まり、独自のファンを確立する機会を逃してしまうのです。  

アニメはJ-POPへの強力な「入口」ですが、それに過度に依存することは、アーティストのキャリアを特定の作品の運命に縛り付け、ジャンル全体の多様性を覆い隠す「檻」にもなりかねません。これは、持続可能なグローバル戦略とは言えない、極めて脆弱な基盤です。

世界から取り残された「ガラパゴス市場」

日本の音楽市場は世界第2位の規模を誇りながら、その内実は世界の潮流からかけ離れた「ガラパゴス」と化しています 。最大の問題は、CDという物理メディアへの異常な依存です。  

世界の音楽市場の収益の約7割がデジタルであるのに対し、日本では今なお収益の大半をCD販売が占めています 。このCD中心のビジネスモデルを守るため、日本の音楽業界は長年、海外からのアクセスを制限する内向きな姿勢を続けてきました。  

ミュージックビデオの多くが海外から視聴できない「ジオブロッキング」や、日本の住所がないと加入できないファンクラブ、世界同時配信の遅れなど、海外の潜在的なファンを自ら遠ざける障壁を築いてきたのです 。  

世界第2位という巨大で収益性の高い国内市場の存在が、皮肉にも海外へ本気で挑戦する必要性を奪い、J-POPを世界から孤立させる原因となりました 。K-POPが国境のないデジタル空間でファンコミュニティを築いている間に、J-POPは国内の物理的な城壁を高くしていたのです。  

結論:J-POPに未来はあるのか

ここまで見てきたように、J-POPが直面している課題は、単なる人気の浮沈ではなく、産業構造そのものに根差した根深い問題です。

K-POPがファンとの関係性をビジネスの中核に据え、Weverseのようなプラットフォームで世界中のファンと繋がり、収益化するエコシステムを構築しているのに対し 、J-POPにはそれに匹敵するグローバルな戦略が存在しません。  

アーティストの育成においても、親近感や「成長物語」を重視するJ-POPのスタイルは、国内では有効でも、即戦力の高いパフォーマンスを求めるグローバル市場では「質の低さ」と受け取られかねません 。  

マーケティング戦略、アーティストの質、そしてビジネスモデル。そのすべてが国内市場に最適化されすぎた結果、J-POPはグローバル競争の舞台から取り残されつつあります。アニメという追い風が止んだ時、そこに自力で飛び続ける翼はあるのでしょうか。

痛みを伴う抜本的な自己改革なくして、J-POPが再び世界のメインストリームで輝くことは極めて難しいと言わざるを得ません。近年のいくつかの成功は、復活の狼煙ではなく、むしろ構造的な行き止まりを示す、最後の花火なのかもしれません。

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J-POPの世界的人気は本物か?K-POPとの決定的差
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音楽大好きです!K-POP、J-POPについて考察を書いていければと思います。
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