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「現金が一番」はなぜ?高齢者がキャッシュ-レスを使わない5つの壁

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新紙幣発行がキャッシュレス化を加速させる? 高齢者がキャッシュレスを使わない5つの「壁」 心理的な壁:「現金への信頼」と「詐欺への恐怖」 身体的な壁:スマホ操作を阻む「見えない・触れない」 社会的な壁:「誰にも聞けない」孤立と遠慮 経済的な壁:年金生活には重い「スマホ代」 環境的な壁:地方では「まだ現金」が当たり前 社会ができること:誰も取り残さないための支援策 自治体の取り組み:成功のカギは「いつでも聞ける居場所」 企業の役割:使いやすいデザインと積極的なサポート 家族ができるサポート:教え方の3つのコツ まとめ:誰もが便利な社会を目指して

2024年7月から新紙幣の発行が始まり、私たちの周りではますますキャッシュレス化が進んでいます。しかし、その一方で「やっぱり現金が一番安心」と感じ、スマートフォンでの決済に戸惑う高齢者が多いのも事実です。なぜ、高齢者はキャッシュレス決済を使わないのでしょうか?

この記事では、その理由を単に「デジタルが苦手だから」という言葉で片付けず、その背景にある5つの具体的な「壁」を深掘りします。この記事を読めば、高齢者が抱える不安の正体がわかり、私たち社会や家族がどのようにサポートすれば良いのか、そのヒントが見つかるはずです。

新紙幣発行がキャッシュレス化を加速させる?

2024年、20年ぶりにデザインが一新された新紙幣が登場しました。実はこの動き、多くの事業者がキャッシュレス決済へ移行する大きなきっかけになっています。

新紙幣に対応するためには、全国のATMや自動販売機、お店のレジなどを更新する必要があり、これには莫大なコストがかかります。そのため、この機会に「いっそ現金対応をやめて、完全にキャッシュレス化しよう」と考える事業者が増えているのです。

政府も「2025年までにキャッシュレス決済比率を4割に、将来的には8割に」という目標を掲げ、国全体でキャッシュレス化を推進しています。実際に、日本のキャッシュレス決済比率は年々上昇しており、社会全体がデジタル決済へと大きく舵を切っていることは間違いありません。

しかし、この大きな変化の波の中で、すべての人が同じように流れに乗れているわけではありません。特に高齢者層では、約7割が「現金を持たずに外出することに抵抗を感じる」と回答しており、長年慣れ親しんだ現金への強い愛着と信頼が根強いことがわかります。このギャップこそが、現代社会が向き合うべき重要な課題なのです。

高齢者がキャッシュレスを使わない5つの「壁」

高齢者がキャッシュレス決済をためらう理由は、決して一つではありません。そこには、心理的、身体的、社会的、経済的、そして環境的な要因が複雑に絡み合った、5つの大きな「壁」が存在します。

心理的な壁:「現金への信頼」と「詐欺への恐怖」

長年、現金と共に生きてきた高齢者世代にとって、手で触れられる紙幣や硬貨は、単なる支払い手段以上の「安心の象徴」です。システム障害や停電の心配もなく、誰でも同じ価値で使える現金への信頼は絶対的です。

また、年金などの決まった収入で暮らす高齢者にとって、デジタル決済は「お金を使っている感覚が薄く、使いすぎてしまうのではないか」という恐怖心を引き起こします。お金を数え、手渡すという物理的な行為が、支出を管理する上で重要な役割を果たしているのです。

さらに深刻なのが、巧妙化する詐欺への強い警戒心です。高齢者は、自分がフィッシング詐欺や架空請求といった犯罪の主なターゲットであることをよく理解しています。メディアで頻繁に報じられる情報漏洩のニュースも相まって、「キャッシュレスは危険」という認識が深く刻まれてしまっています。そのため、ポイント還元などの「お得さ」をアピールされても、そのサービスが本当に安全で使いやすいと感じられなければ、利用に踏み切ることは難しいのです。

身体的な壁:スマホ操作を阻む「見えない・触れない」

加齢に伴う身体的な変化も、デジタル機器の操作を困難にする大きな要因です。

まず、視力の低下によってスマートフォンの小さな文字やアイコンが見えにくくなります。また、指先の乾燥や震えは、タッチパネルの正確な操作を妨げます。一生懸命押しているつもりでも、画面が反応してくれないという経験は、多くの高齢者が直面する問題です。

さらに、記憶力の変化も無視できません。アプリごとに異なるIDやパスワードを覚えたり、何段階にもわたる複雑な操作手順を記憶したりすることは、大きな認知的負担となります。「アカウント」や「ブラウザ」といった専門用語が理解できず、見慣れない画面が表示された瞬間に「間違えたらどうしよう」という不安から、操作が止まってしまうことも少なくありません。

社会的な壁:「誰にも聞けない」孤立と遠慮

新しい技術を学ぶ上で、周囲のサポートは不可欠です。しかし、現代の高齢者、特に一人暮らしの人は、困ったときに気軽に質問できる相手が身近にいない「社会的孤立」の状態にあるケースが少なくありません。

また、日本社会に根付く「他人に迷惑をかけたくない」という文化も、キャッシュレス化を妨げる一因となっています。レジの行列で操作にもたついて後ろの人を待たせてしまうことへの不安や、忙しそうな店員に初歩的な質問をすることへのためらいが、新しいことに挑戦する意欲を削いでしまうのです。

自分の友人や知人が誰も使っていなければ、わざわざ学ぼうという動機も生まれにくく、「みんなが使っている現金が一番安心」という現状維持の考えが強まってしまいます。

経済的な壁:年金生活には重い「スマホ代」

年金収入を主な生活基盤とする高齢者にとって、キャッシュレス決済の導入は慎重なコスト計算の対象となります。

まず、スマートフォン本体の購入費用と、毎月の通信料金は決して軽い負担ではありません。格安SIMを利用したとしても、月々数千円の固定費が新たにかかることになります。国民年金の平均月額が約5万6000円であることを考えると、これまで無料でできていた「支払い」という行為のために新たな出費をすることに、抵抗を感じるのは自然なことです。

そもそも、人生の大半をスマートフォンなしで過ごしてきた世代にとって、スマホは生活必需品と見なされていない場合も多く、通話やメッセージといった基本的な機能で十分だと感じている人も少なくありません。

環境的な壁:地方では「まだ現金」が当たり前

キャッシュレス決済がどれだけ便利かは、住んでいる場所によって大きく異なります。

特に地方や過疎地域では、まだまだ現金しか使えない個人商店が多く存在します。店側も、決済手数料の負担や、複数の決済システムを管理する煩雑さ、そして何より「お客さんから要望がない」ことを理由に、導入に消極的なのが実情です。

また、災害の多い日本では、停電や通信障害が起きても確実に使える現金が、最も信頼できる決済手段だと考える人も多くいます。この「いざという時の確実性」は、高齢者にとって非常に重要な価値を持っているのです。

社会ができること:誰も取り残さないための支援策

高齢者が直面する「5つの壁」を乗り越えるためには、どうすればよいのでしょうか。全国の自治体や企業、そして私たち家族ができる具体的なサポート策を見ていきましょう。

自治体の取り組み:成功のカギは「いつでも聞ける居場所」

全国の自治体では、高齢者向けのデジタル支援が活発に行われています。その成功事例には、共通するヒントが隠されています。

  • 東京都渋谷区の「スマホサロン」:予約不要でいつでも立ち寄れ、専門の支援員に気軽に質問できる場を提供。参加者同士で教え合ったり、おしゃべりしたりする交流の場にもなっており、「何度でも同じことを聞ける安心感がある」と好評です。
  • 神戸市の「スマホ相談窓口」:講師役を大学生が務めることで、高齢者は孫世代から親しみやすく教えてもらえる一方、学生は地域貢献を経験できるという、世代間交流のモデルとなっています。
  • 高知県日高村の「村まるごとデジタル化」:スマホの利用が、村内で使える地域通貨や防災情報、日々の健康管理に直接つながる仕組みを構築。デジタルを学ぶことが生活の具体的なメリットと結びついており、強力な動機付けとなっています。

これらの成功事例からわかるのは、一回きりの講座ではなく「いつでも聞ける」継続性、集団講習だけでなく「一対一で向き合う」個別性、そしてスキルを学ぶだけでなく「生活が便利になる」実践性が重要であるということです。

企業の役割:使いやすいデザインと積極的なサポート

デジタルサービスを提供する企業にも、大きな責任と役割があります。

ソフトバンクは、移動式の教室兼相談窓口である「スマホなんでもサポート号」で全国を巡回し、店舗へのアクセスが難しい地域でも無料のスマホ教室を開催しています。自社のユーザーでなくても誰でも参加できるこの取り組みは、デジタルデバイドが社会全体の課題であるという認識の表れです。

また、より根本的な解決策として、高齢者にとって本当に使いやすい製品やサービスをデザインすること(シニアフレンドリーなUI/UX)が求められます。これは単に文字を大きくするだけでなく、操作手順をシンプルにしたり、専門用語を使わないようにしたりと、あらゆる側面での配慮が必要です。利用者に「自分がデジタルが苦手だ」と感じさせない、尊厳を支えるデザインが重要になります。

家族ができるサポート:教え方の3つのコツ

最も身近な存在である家族のサポートは、何にも代えがたいものです。しかし、教える側にも少しのコツと心構えが必要です。

  • 専門用語を避ける:「タップ」は「ポンと触る」、「ブラウザ」は「インターネットを見る画面」のように、分かりやすい言葉に置き換えましょう。
  • 操作は本人にさせる:つい代わりに操作してしまいがちですが、それではいつまで経っても覚えられません。教える側は指で場所を示すだけにとどめ、実際の操作は必ず本人にやってもらいましょう。
  • 本人の「やりたいこと」を優先する:「これを覚えるべき」という教える側の都合ではなく、本人が「やってみたい」と思うこと(例:孫とテレビ電話がしたい、趣味の調べ物をしたい)を最初の目標にすると、学習意欲が格段に高まります。

そして何より大切なのは、根気強く、肯定的な態度で接することです。何度も同じ質問をされてもイライラせず、「何度でも聞いてね」という姿勢が、本人の安心感につながります。

まとめ:誰もが便利な社会を目指して

高齢者がキャッシュレス決済を使わない背景には、単なる知識不足ではなく、心理的、身体的、社会的な要因が複雑に絡み合った「5つの壁」が存在します。この問題を解決するためには、技術を一方的に押し付けるのではなく、一人ひとりの不安に寄り添い、その壁を一つひとつ取り除いていく地道な努力が不可欠です。

自治体による「いつでも聞ける居場所」づくり、企業による「誰にでも優しいデザイン」の追求、そして家族による「根気強い対話」。これらの連携によって、テクノロジーがもたらす恩恵から誰も取り残されることのない、真に暮らしやすい社会が実現するはずです。キャッシュレス化のゴールは、単に現金をなくすことではなく、すべての人がデジタル技術によって、より安全で、豊かで、つながりを感じられる生活を送れるようになることなのです。

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