退職代行の裏側:「困った利用者」に担当者が本音で語る実態とは?
近年、テレビやネットニュースでも話題になることが増えた「退職代行サービス」。パワハラが横行する職場から逃れたい、上司に退職を言い出せない、とにかく早く辞めたい…そんな悩みを抱える人々の「駆け込み寺」として、利用者は増加傾向にあると言われています。
しかし、その裏側では、サービス提供者たちが「信じられない」「非常識だ」と頭を抱えるような利用者の行動に遭遇しているケースも少なくないようです。今回は、退職代行サービスの担当者たちが直面する「困った利用者」の実態に迫ります。
なぜ人々は退職代行を選ぶのか? その背景にあるもの
まず、なぜ退職代行サービスがこれほどまでに必要とされているのでしょうか? 利用者の多くは20代から30代の若年層で、その理由は様々です。
- 退職を言い出せない・引き止められる: 「上司が怖くて言い出せない」「どうせ強く引き止められる」「退職を伝えた後の嫌がらせが怖い」といった、直接対話への強い不安感。
- 劣悪な職場環境: パワハラ、モラハラ、セクハラが横行している、長時間労働が常態化している、いわゆる「ブラック企業」から一刻も早く脱出したいという切実な願い。
- 心身の限界: すでに精神的に追い詰められており、会社と直接やり取りする気力がない。
- 迅速・円満な退職: 面倒な手続きや交渉を避け、スムーズに退職したい。
特に、勤続年数が短い(中には入社数日というケースも!)利用者が多いという事実は、入社後のギャップや、耐え難い労働環境が早期に露呈している可能性を示唆しています。退職代行は、こうした困難な状況から抜け出すための有効な手段として認識されているのです。
退職代行担当者が語る「正直、困っています…」な利用者像
多くの利用者が切実な思いでサービスを利用する一方で、担当者を悩ませる「困った行動」をとる利用者もいるようです。具体的にどのようなケースがあるのでしょうか。
1. 依頼した途端に音信不通…「ゴースティング」する利用者
最も困るケースの一つが、依頼を受けて会社への連絡を開始した途端、利用者本人と全く連絡が取れなくなってしまうパターンです。会社からの問い合わせや伝言を利用者に伝えられず、手続きは完全にストップ。料金だけ支払って、なぜか姿を消してしまう…。担当者としては、状況が全く分からず、対応に窮してしまいます。
2. 「後はよろしく」では済まない…非協力的な利用者
退職代行は魔法の杖ではありません。会社から借りているパソコンや制服、社員証などの返却、退職届への署名・提出など、利用者本人が対応すべき手続きも存在します。しかし、「代行に頼んだのだから、全部やってくれるんでしょ?」とばかりに、これらの対応を著しく遅らせたり、全く行わなかったりするケースがあります。これは退職手続きの遅延を招くだけでなく、最終的な給与支払いに影響したり、最悪の場合、会社から損害賠償を請求されるリスク(法的根拠は弱い場合が多いですが)にも繋がりかねません。
3. それ、法律違反です…無理難題を要求する利用者
退職代行サービスには、運営主体によって「できること」と「できないこと」があります。特に、弁護士資格を持たない民間の事業者は、退職意思の「伝達」はできても、未払い残業代の請求や有給休暇の買い取り交渉など、法的な「交渉」は行えません(非弁行為として法律で禁じられています)。しかし、この違いを理解せず、「残業代も請求してほしい」「慰謝料を取りたい」といった、事業者の権限を超える要求を強くしてくる利用者がいます。担当者が法律上の制限を説明しても納得せず、トラブルになることも少なくありません。
4. 実は借金が…重要な情報を隠す利用者
「実は会社からお金を借りていて…」「懲戒解雇になりそうなんです…」といった、退職手続きを複雑にする可能性のある重要な情報を、依頼時に伝えないケースもあります。後からこうした事実が発覚すると、通常の退職代行プロセスでは対応が困難になり、事業者側が対応を断念せざるを得ないことも。最初から正直に話してくれれば、弁護士への相談を促すなど、別の対応ができたかもしれません。
なぜ「困った行動」は起きてしまうのか?
こうした「非常識」とも思える行動の背景には、何があるのでしょうか? 一概に利用者を責めることはできません。
- 極度の精神的ストレス: 退職を決意するほどの状況ですから、利用者は強いストレスや不安、混乱の中にいる可能性が高いです。正常な判断力やコミュニケーション能力が低下していても不思議ではありません。
- サービスへの誤解・知識不足: 退職代行サービスで「何でも解決してもらえる」と過度に期待していたり、サービス提供者の種類による権限の違いや、法的なルールを理解していなかったりする場合があります。
- 切羽詰まった状況: 未払い賃金など、どうしても解決したい問題があり、藁にもすがる思いで無理な要求をしてしまうのかもしれません。
担当者も、こうした利用者の苦しい状況は理解しようと努めています。しかし、業務の遅延や法的リスクは避けなければならず、その板挟みで苦労しているのが実情です。
退職代行サービスとの「上手な付き合い方」とは?
退職代行サービスは、追い詰められた労働者にとって心強い味方となり得ます。しかし、サービスを最大限に活用し、スムーズな退職を実現するためには、利用者側にも心がけてほしい点があります。
- 正確な情報提供と連絡の維持: 依頼後は、担当者からの連絡には誠実に対応し、必要な情報は正確に伝えましょう。
- 自身の責任の認識: 物品の返却や書類提出など、自身で対応すべきことは、責任を持って行いましょう。
- サービス範囲の理解: 依頼する事業者が「何をしてくれるのか」「何ができないのか」を事前にしっかり確認しましょう。交渉が必要な場合は、労働組合や弁護士が運営するサービスを選ぶ必要があります。
- 複雑な事情は正直に相談: 隠し事をせず、正直に状況を伝えることが、結果的にスムーズな解決への近道です。
そして、忘れてはならないのは、退職代行サービスの需要が高まっている背景には、依然として多くの職場でハラスメントや劣悪な労働環境が存在するという事実です。個々の利用者の問題を「非常識」と切り捨てるだけでなく、誰もが安心して働ける、そして円満に退職できる社会を目指していく必要があるのではないでしょうか。
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