なぜ新卒の初任給だけ上がる?既存社員との給与逆転の裏側
「ユニクロの初任給33万円」「メガバンクも30万円台へ」— 近年、大手企業で新卒の初任給が急上昇しています。
この背景には、優秀な若手人材を巡る激しい争奪戦があります。しかしその一方で、長年会社を支えてきた既存社員の給料は伸び悩み、入社数年の先輩社員の給料を新卒が上回る「給与の逆転現象」も発生しています。
この記事では、なぜ初任給だけが上がるのか、その理由と、社内に生まれる格差がもたらす深刻な影響、そして今後の見通しまでを分かりやすく解説します。
なぜ初任給は急上昇しているのか?3つの背景
新卒の初任給がこれほどまでに引き上げられている背景には、主に3つの要因があります。
1. 優秀な若手人材の激しい争奪戦
最大の理由は、少子高齢化による労働人口の減少です。将来の会社を担う優秀な若手を確保するため、各社が「初任給」という分かりやすい指標で魅力をアピールし、他社に負けないよう競い合っています。帝国データバンクの調査でも、初任給を引き上げる理由のトップは「人材の確保のため」でした。
2. 物価上昇への対応
食料品やエネルギー価格の高騰など、近年の急激な物価上昇も大きな要因です。これから社会人になる若者が安心して生活をスタートできるよう、企業側が生活コストの上昇分を給与に反映させる動きが広がっています。
3. 政府からの賃上げ要請
政府や経済界が、デフレ脱却と経済の好循環を目指して企業に賃上げを強く働きかけています。特に、社会的な注目度が高い大手企業は、その要請に応える形で、まず新規採用者の待遇改善に着手している側面があります。
【2025-2026年】大手企業の初任給引き上げ事例まとめ
実際にどれくらい初任給が上がっているのか、具体的な企業の事例を見てみましょう。
ユニクロは33万円、大和ハウスは35万円へ
特に大きな話題となったのが、ファーストリテイリング(ユニクロ)です。2025年3月入社の新卒初任給を3万円引き上げ、33万円にすると発表しました。
また、大和ハウス工業は2025年4月入社から、なんと10万円増の35万円へと大幅に引き上げています。
金融・IT・建設業界も高水準に
この動きは特定の業界に留まりません。
- 三井住友銀行:2026年4月入行から30万円へ(メガバンクで初)
- ソニーグループ:2025年度から大卒31万3,000円へ
- SBIホールディングス:34万円
- りそな銀行:28万円
このように、業界を問わず主要企業が次々と初任給を引き上げており、一つの大きなトレンドとなっています。
一方でなぜ既存社員の給料は上がりにくいのか?
新卒の待遇が改善される一方で、なぜ既存社員、特に若手・中堅社員の給料は同じペースで上がらないのでしょうか。
年功序列から成果主義への移行
かつての日本では、勤続年数に応じて給料が上がる「年功序列」が主流でした。しかし今は、個人の成果やスキルを評価する「成果主義」へ移行する企業が増えています。これにより、明確な成果を上げない限り、勤続年数だけでは給料が上がりにくい構造になっています。
会社全体の業績と人件費の抑制
会社全体の給与水準を上げる(ベースアップ)には、安定した業績と体力が必要です。先行き不透明な経済状況の中、多くの企業は全体の総人件費を抑えたいと考えており、全社員一律の大幅な賃上げには慎重にならざるを得ないのが実情です。
既存社員より「新規採用」を優先する戦略
企業戦略として、まずは将来への投資である「優秀な新人の確保」に資金を重点的に配分しているケースも少なくありません。その結果、既存社員の昇給が後回しになり、新卒の初任給との差が縮まる、あるいは逆転するという事態が起きています。
「新卒>先輩」給与逆転がもたらす3つのリスク
新卒と既存社員の給与格差、特に「給与逆転」は、企業にとって長期的に見ると深刻なリスクをはらんでいます。
既存社員のモチベーション低下
「何年も会社に貢献してきた自分の給料が、新人とほとんど変わらない…」
このような状況は、既存社員、特に数年目の若手・中堅社員のやる気を著しく削ぎます。自身の評価への不満から、仕事の質や生産性が低下する恐れがあります。
中堅・ベテラン社員の人材流出
給与体系に不満を持った社員が、より正当な評価と報酬を求めて転職してしまうリスクが高まります。特に、豊富な経験とスキルを持つ中堅・ベテラン社員の流出は、企業の競争力を直接的に低下させる大きな痛手です。
社内の不公平感と人間関係の悪化
給与の逆転現象は、社内に不公平感を生み出します。新人を指導する立場の先輩社員が、自分より給料が高い後輩に複雑な感情を抱くなど、チームワークや職場の人間関係に悪影響を及ぼしかねません。
この格差は今後どうなる?私たちにできることは
この給与格差は、今後少しずつ是正されていく可能性があります。日本商工会議所の会頭も「初任給が上がれば、全従業員の給与も上げていくのが当然の流れ」と発言しており、実際に大和ハウス工業のように全社的な給与改定に踏み切る企業も出始めています。
ただし、その動きは緩やかかもしれません。企業が従来の年功序列を見直し、個人のスキルや役割に応じた「ジョブ型」の給与体系へ移行する流れは加速するでしょう。
私たち従業員としては、この変化をキャリアを見直す機会と捉えることが重要です。会社の評価制度を正しく理解し、自身の市場価値を高めるためのスキルアップや、成果を明確に示す努力が、これまで以上に求められます。
まとめ:初任給引き上げは賃金体系見直しの合図
大手企業による新卒初任給の大幅な引き上げは、人材獲得競争の激化を象徴する動きです。しかしその裏側では、既存社員との給与格差という新たな問題が生まれています。
この問題は、単なる待遇の差ではなく、社員のモチベーションや人材定着に直結する、企業の将来を左右する重要な経営課題です。
企業にとっては、新卒採用への投資と同時に、長年会社を支える既存社員が報われる公平な評価・報酬制度を再構築することが急務と言えるでしょう。この動きは、日本の賃金体系が大きく変わる転換点の合図なのかもしれません。
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