「フェーズフリー」という新常識。暮らしに溶け込む防災術
特別な「防災」をやめてみませんか?
「防災」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?
押し入れの奥で出番を待つ、重たい非常用持ち出し袋。年に一度、しぶしぶ確認する賞味期限切れ間近の乾パンや保存水。そんな「いかにも」な防災準備に、どこか面倒くささや、物々しさを感じている方も少なくないでしょう。
もし、そんな「特別な備え」を意識しなくても、日々の暮らしそのものが最強の防災になる、としたらどうでしょうか。
その新しい答えが、**「フェーズフリー(Phase Free)」**という考え方です。これは、「日常時(いつも)」と「非常時(もしも)」の垣根(フェーズ)を取り払い(フリー)、普段使っているモノやサービスが、災害という非日常の場面でも役立つようにしよう、という新しい防災の常識です 。
フェーズフリーのメリットは、私たちの生活に自然にフィットする点にあります。特別な準備が不要なのでストレスが少なく、普段使いの延長なので経済的。そして、非常食の廃棄ロスといった「もったいない」もありません 。何より、意識せずとも「常に備えができている」という安心感を手に入れることができるのです。
この記事では、あなたの暮らしをより豊かに、そして安全にアップデートする「フェーズフリー」という新常識について、今日からすぐに始められる具体的なアイデアと共にご紹介します。
フェーズフリーの心臓部:「ローリングストック」を極める
フェーズフリーな暮らしを実践する上で、最も重要で、誰でも今日から始められるのが「ローリングストック」です。これは、防災を特別なイベントではなく、日々の習慣に溶け込ませるための、賢い備蓄術です。
「買う・使う・買い足す」だけのシンプル習慣
やり方は驚くほど簡単です。普段の買い物の際に、いつも使っている食料品や日用品を「少しだけ多めに」買い置きし、賞味期限の古いものから使い、使った分だけを次の買い物で買い足す。このサイクルを繰り返すだけ 。これは「防災のための特別な買い物」ではなく、「いつもの買い物の延長」なのです。
何をストックする?「いつものお気に入り」が最強の非常食
災害時に食べ慣れないものを口にするストレスは、想像以上に大きいものです 。ローリングストックの最大のポイントは、家族が普段から本当に食べている、好きなものを選ぶこと。
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食品のストック例
- 主食・主菜: パスタとパスタソース、レトルトカレー、パックごはん、カップ麺。サバやツナ、焼き鳥などの缶詰は、調理不要で栄養価も高く、立派なごちそうになります 。
- その他: 長期保存可能な牛乳や豆乳、フルーツの缶詰、野菜ジュース。そして、心を和ませるチョコレートやクッキーなどのお菓子も、非常時の貴重なエネルギー源であり、心の支えになる備蓄品です 。
- 飲料水: 「1人1日3リットルを最低3日分」が理想ですが 、まずは「常に家族の人数 × 2リットルのペットボトル1本分」の予備がある状態をキープすることから始めましょう。
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日用品のストック例
- 消耗品: トイレットペーパー、ティッシュペーパー、ウェットティッシュ、食品用ラップ、ゴミ袋、乾電池。これらは品薄になりやすい代表格です 。
- カセットコンロとガスボンベ: ライフラインが止まった際に温かい食事を作るための命綱です。ガスボンベは意識して多めにストックしておきましょう 。
ストックを無駄にしないためには、キッチンの棚やパントリーの一角を「ローリングストックコーナー」に指定し、新しいものを奥に、古いものを手前に置く「先入れ先出し」を徹底するのがコツです 。この簡単なルールを家族全員で共有することが、成功の鍵となります。
暮らしを豊かにする「フェーズフリーな逸品」たち
日々の暮らしを快適にし、いざという時には命や生活を救う。そんな賢く、多機能で、デザイン性の高い「フェーズフリー製品」を生活に取り入れてみましょう。「いかにも防災グッズ」ではない、普段から使いたくなるお気に入りを見つけることが、継続の秘訣です。
無印良品「いつものもしも」シリーズに学ぶ
このフェーズフリーのコンセプトを巧みに体現しているのが、無印良品の「いつものもしも」シリーズです。防災用品を「隠す」のではなく、暮らしの中に「置きたくなる」洗練されたデザインが特徴です 。
- いつものもしも防災スリッパ: 見た目は普通のおしゃれなスリッパですが、靴底にはガラス片や釘の貫通を防ぐシートが内蔵されています。普段は快適なルームシューズとして、地震の後は危険な床を安全に歩くための靴として機能します 。
- LEDランタン: シンプルで美しいデザインのランタン。普段はベッドサイドの読書灯や間接照明として。停電時には、部屋全体を照らす頼もしい光源に変わります 。
テクノロジーもフェーズフリーに
- ポータブル電源: キャンプやDIY、ベランダでのリモートワークに大活躍。そして、停電時にはスマートフォンを充電し、情報を得て、家族と繋がるための生命線となります。扇風機や電気毛布など、季節に応じた家電を使えることも大きな安心材料です 。
- 防水仕様のビジネスリュック: 雨の日の通勤でPCや書類を守るリュックは、水害時の避難では、貴重品や電子機器を水から守るための重要な役割を果たします 。
その他の賢い選択
- 高カカオチョコレートやナッツ: 仕事中のエネルギー補給やハイキングのお供に。非常時には、調理不要で高カロリーを摂取できる貴重なエネルギー源となります 。
- 公園のベンチ: 実は、かまどとして使える機能を備えた「かまどベンチ」が設置されている公園もあります。普段は憩いの場が、もしもの時には炊き出しの拠点に変わる、これも優れたフェーズフリーのアイデアです。
近年では、専門機関がその価値を認めた「フェーズフリー認証マーク」付きの製品も増えています。商品選びの一つの参考にしてみるのも良いでしょう 。
モノだけじゃない!「行動」や「意識」もフェーズフリーに
フェーズフリーは、モノの備えだけに限りません。災害時の「行動」や「意識」も、普段の生活に溶け込ませることが可能です。
30分でできる「おうち防災ゲーム」
大げさな防災訓練ではなく、家族で楽しめる短いアクティビティとして、定期的に行ってみましょう 。
- 危険箇所探しゲーム: 家の中を歩き回り、「地震が来たら一番危ない家具トップ3」を指差し確認。どうすれば安全になるか話し合います 。
- 安全ゾーンへGO!: 各部屋で「もし今、大きな地震が来たらどこに隠れる?」とクイズを出し合い、机の下など最も安全な場所に5秒で移動するタイムアタックに挑戦します 。
- 暗闇探検: 夜間に家のブレーカーを5分間だけ落としてみましょう。真っ暗闇の中、各自が懐中電灯を自分の置き場所から見つけ出せるか試します。電池切れや置き忘れなど、意外な問題点が見つかるはずです 。
「避難散歩」を習慣に
普段のウォーキングや犬の散歩コースに、地域の避難場所へ向かうルートを組み込んでみましょう 。実際に歩いてみることで、地図上ではわからない危険なブロック塀や狭い道を発見できます。これもまた、日常に防災を溶け込ませる、立派なフェーズフリー活動なのです。
まとめ:無理なく、無駄なく、賢く備える
「フェーズフリー」とは、防災を特別なものと捉えるのではなく、日々の暮らしの延長線上で、当たり前の備えを習慣化していく考え方です。それは、私たちの防災に対する心理的なハードルを下げ、より持続可能で効果的な備えを実現してくれます。
- ポイント1:まずは「ローリングストック」から 普段食べているもの、使っているものを少し多めに買うだけ。これがフェーズフリーの第一歩であり、最も重要な習慣です。
- ポイント2:お気に入りの「フェーズフリーグッズ」を見つける 「防災用だから」ではなく、「普段から使いたい」と思えるデザインや機能性の高いアイテムを選ぶことで、楽しみながら備えができます。
- ポイント3:「行動」も日常に溶け込ませる 防災訓練をゲーム感覚で楽しんだり、いつもの散歩に避難経路の確認を加えたりすることで、いざという時に体が自然と動くようになります。
特別な準備に追われる防災から、暮らしを豊かにする防災へ。フェーズフリーという新しい常識を取り入れて、あなたとあなたの大切な家族の毎日を、もっと安全で、もっと安心できるものに変えていきましょう。
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