猫が吐いた!大丈夫?獣医が教える危険な嘔吐と安全な嘔吐の見分け方
愛猫が突然、苦しそうに吐いてしまうと、飼い主様は「ただの毛玉?」「何か悪い病気だったらどうしよう…」と、不安で胸がいっぱいになりますよね。
猫は他の動物に比べて吐きやすい動物ですが、「猫はよく吐くから大丈夫」という考えは、時に危険な病気のサインを見逃す原因にもなりかねません。
この記事では、獣医師の視点から、その嘔吐が一時的なものなのか、それとも病気のサインなのかを見分けるポイントと、ご自宅でできる対処法、そして動物病院での治療法まで、飼い主様の不安を安心に変えるための情報を徹底的に解説します。嘔吐という一つの症状から、愛猫の体の中で何が起きているのかを正しく理解し、適切な対応ができるよう、一緒に学んでいきましょう。
その嘔吐、大丈夫?まずは緊急性をチェック!
何よりも先に、今すぐ動物病院へ行くべき「危険な嘔吐」のサインを知ることが重要です。愛猫に以下の症状が見られる場合は、様子を見ずに、可能であれば夜間救急病院の受診も視野に入れてください。
- 嘔吐物に血が混じる ピンク色、鮮やかな赤色、あるいはコーヒーかすのような茶褐色・黒い粒が混じっている場合、消化管のどこかで出血している可能性があります。胃潰瘍や腫瘍、誤飲による内臓の損傷など、命に関わる重篤な病気のサインです。
- 何度も吐く、または嘔吐が続く 1日に4回以上吐く、または3日以上嘔吐が続いている場合、脱水症状を引き起こし急激に体力を奪います。消化器系の疾患や異物の誤飲など、緊急性の高い状態が考えられます。
- ぐったりして元気がない、ふらつく 嘔吐に加えて元気がない場合、体は深刻なダメージを受けています。脱水や痛み、全身性の疾患などが原因で、単なる吐き戻しではないことを示唆しています。
- 呼吸が苦しそう、口を開けて呼吸している 猫の開口呼吸は、極度の苦痛や酸欠状態を示す非常に危険なサインです。呼吸器系の異常や、心臓病が原因で嘔吐している可能性があります。
- 異物や毒物を飲み込んだ可能性がある 紐状のもの、おもちゃの破片、有毒な植物(ユリなど)、人間の薬や食べ物(チョコレート、玉ねぎなど)を誤飲した疑いがある場合は、一刻を争います。腸閉塞や中毒は命に関わります。
- 何度も吐こうとするが吐けない えずきが続くのに何も出てこない場合、何かが喉や食道、胃に詰まっている可能性があります。異物や巨大な毛玉による閉塞が疑われ、放置すると危険です。
- おしっこが出ていない(特にオス猫) 尿道が結石などで詰まる「尿道閉塞」は、急性腎不全を引き起こし、数日で命を落とす極めて危険な状態です。体内に毒素が溜まることで吐き気を催し、嘔吐が見られます。
- 下痢やけいれんも伴う 嘔吐と下痢が同時に起こる場合、感染症や中毒、重度の胃腸炎などが考えられ、脱水が急速に進行します。けいれんは神経症状であり、中毒や重篤な代謝性疾患の可能性があります。
これらのサインは、体が発する「SOS」です。嘔吐だけでなく、愛猫の全身状態を注意深く観察することが、本当の緊急事態を見極める鍵となります。
嘔吐物でわかる猫の健康状態【色と内容を観察しよう】
動物病院を受診する際、飼い主様からの情報は、診断の精度とスピードを大きく左右する最も重要な手がかりとなります。可能であれば、吐いたものを写真に撮っておくと、獣医師に状態を伝えやすくなります。
嘔吐物の内容
- 毛玉: 細長い筒状の毛の塊です。通常は緊急性が低いですが、あまりに頻繁に吐く場合は、胃腸の動きが悪い、あるいはストレスや皮膚病で過剰なグルーミングをしているサインかもしれません。
- 未消化のフード: 食後すぐに、食べたフードがほぼそのままの形で出てくる場合、早食いや食べ過ぎが原因のことが多いです。
- 消化されたフード: 食後数時間経ってから、茶色いドロドロしたものを吐く場合、胃や腸に問題があり、うまく消化が進んでいない可能性があります。
- 異物: おもちゃの破片、ビニール、紐など、食べ物以外のものが見つかった場合は、すぐに動物病院に連絡してください。
- 寄生虫: そうめんのような白い虫(回虫など)が混じっていることがあります。駆虫薬による治療が必要です。
嘔吐物の色
- 透明・白い泡: 胃液や唾液です。空腹時や、異物・毛玉を吐き出す前兆として見られます。1回きりで元気なら様子見で良いことが多いですが、頻繁なら受診を検討しましょう。
- 黄色: 胆汁の色です。長時間の空腹で、十二指腸から胆汁が胃に逆流したものが最も多い原因です。ただし、肝臓や膵臓の病気の可能性も否定できません。
- 緑色: 濃い胆汁の色です。猫草を食べた後にも見られますが、そうでなければ腸閉塞など重篤な消化器疾患で腸の内容物が逆流している可能性があり、危険なサインです。
- 茶色: 消化されたフードの色であることが多いですが、胃や腸からの古い出血(血液が酸化した色)の可能性もあります。便のような臭いがする場合は腸閉塞を強く疑います。
- 赤・ピンク: 新鮮な血液です。口の中、食道、胃などからの出血が考えられます。原因が何であれ、血液の混入は緊急事態です。すぐに動物病院を受診してください。
なぜ吐くの?心配いらない嘔吐と病気が原因の嘔吐
猫の嘔吐は、大きく分けて「生理的なもの」と「病的なもの」に分類できます。
心配の少ない「生理的な嘔吐」
これらは病気が直接の原因ではなく、猫の習性や生活習慣に起因するもので、多くは緊急性が低いものです。
- 毛玉の吐き出し: グルーミングで飲み込んだ毛を排出するための自然な行為です。
- 早食い・食べ過ぎ: 一度に大量のフードが胃に入り、処理しきれずに吐き戻してしまいます。
- 空腹: 食事の間隔が空きすぎると、胆汁が胃に逆流して刺激となり、黄色い液体を吐くことがあります。
- フードの変更: 急にフードを変えると、消化器系が対応できずに嘔吐することがあります。
- ストレス: 引っ越しや来客など、環境の変化が原因で急性的に胃が荒れて嘔吐することがあります。
病気のサインとしての「危険な嘔吐」
繰り返し吐く、他の症状を伴う、元気や食欲がないといった場合は、背景に病気が隠れている可能性が高いです。
- 消化器系の病気: 急性胃腸炎、炎症性腸疾患(IBD)、膵炎、異物による消化管閉塞、腫瘍などが原因となります。
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全身性の病気: 嘔吐の原因は、必ずしも胃や腸にあるとは限りません。
- 慢性腎臓病: 高齢の猫に非常に多い病気です。腎機能が低下し、体内に溜まった老廃物(尿毒素)が吐き気を引き起こします。
- 甲状腺機能亢進症: 甲状腺ホルモンが過剰になり、全身の代謝が異常に活発になることで嘔吐を引き起こします。食欲は旺盛なのに痩せていくのが特徴です。
- 肝臓病や中毒: 体内の毒素を解毒できなくなり、吐き気や嘔吐の原因となります。
シニア猫の嘔吐は特に注意!見逃したくない病気のサイン
7歳以上のシニア期に入った猫の嘔吐は、若い猫の場合とは異なり、より注意深く観察する必要があります。「もう年だから」と考えるのは大変危険です。
シニア猫の嘔吐は、「慢性腎臓病」「甲状腺機能亢進症」「がん(特に消化器型リンパ腫)」といった、加齢とともにリスクが高まる重大な病気のサインであることが少なくありません。
これらの病気の初期症状は、「なんとなく食欲が落ちた」「少し痩せてきた」といった微妙な変化に、嘔吐が加わることが多いのです。若い猫であれば「少し様子を見よう」と判断できるケースでも、シニア猫の場合は、嘔吐が見られたら早めに動物病院を受診し、健康状態のチェックを受けることが強く推奨されます。
愛猫が吐いた時の具体的な対処法【自宅ケアと病院受診】
愛猫が吐いてしまった時、具体的にどう行動すればよいのかを解説します。
自宅で様子を見る場合のケア
自宅で様子を見ても良いのは、「毛玉や早食いが原因で1回だけ吐き、その後はケロッとしていて元気も食欲も普段通り」という場合に限られます。
嘔吐直後は胃腸が敏感になっているため、すぐに食事や水を与えると再び吐いてしまうことがあります。まずは数時間、食事も水も与えず胃を休ませましょう。嘔吐が落ち着いたら、ごく少量の水から与え、吐かなければ消化の良いフードを少量与えます。数時間おきに少しずつ量を増やし、1〜2日かけて元の食事に戻していきます。この過程で再び吐くようなら、すぐに動物病院に連絡してください。
動物病院へ連れて行く準備
受診を決めたら、以下の情報をメモして獣医師に伝えられるように準備しましょう。
- いつから、何回吐いているか
- 嘔吐物の色や内容
- 嘔吐以外の症状(元気、食欲、下痢など)
- 最近の環境の変化や誤飲の可能性
可能であれば嘔吐物の写真を持参し、猫は必ず安全なキャリーケースに入れて連れて行きましょう。
嘔吐を防ぐために今日からできる予防策
多くの生理的な嘔吐は、日々の生活習慣を見直すことで予防・軽減が可能です。
- 食事管理: 早食い防止食器を活用したり、食事の回数を1日3〜4回に増やしたりして、一度に食べる量を減らしましょう。少し高さのある食器台を使うのも効果的です。
- 毛玉ケア: こまめなブラッシングで飲み込む毛の量を減らすことが最も重要です。食物繊維が豊富な毛玉ケアフードや、サプリメントも有効です。
- 安全な環境作り: 猫が口にしそうな紐や小さなおもちゃは片付け、有毒な植物は室内に置かないようにしましょう。安心して過ごせる隠れ家やキャットタワーを用意し、ストレスを軽減してあげることも大切です。
まとめ:愛猫のサインを見逃さず、不安な時は獣医師へ
愛猫の嘔吐は、飼い主様にとって心配な出来事ですが、その背景には様々な理由があります。一過性の生理的なものから、命に関わる病気のサインまで、その原因は多岐にわたります。大切なのは、パニックにならず、愛猫の状態を冷静に観察することです。
- ポイント1:緊急性の高いサインを見極める 血が混じる、ぐったりしている、呼吸がおかしい、何度も吐くなどの症状は危険なサインです。様子見はせず、すぐに動物病院を受診しましょう。
- ポイント2:嘔吐物と全身状態を観察する 嘔吐物の色や内容、嘔吐以外の症状(元気、食欲、排泄など)は、診断の重要な手がかりになります。写真を撮ったり、メモをしたりしておきましょう。
- ポイント3:シニア猫の嘔吐は特に注意 高齢の猫の嘔吐は、慢性腎臓病などの重大な病気が隠れている可能性があります。「年のせい」と軽視せず、早めの受診を心がけてください。
- ポイント4:予防できる嘔吐もある 食事の与え方の工夫や、こまめなブラッシング、安全な環境作りで、日常的な嘔吐のリスクを減らすことができます。
そして、最も重要なことは、「迷った時、不安な時は、ためらわずに獣医師に相談する」ことです。この記事が、皆様と愛猫の健やかで安心な毎日のための一助となれば幸いです。
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