2026年成人の日|Z世代の「静かな成人式」とリアルな価値観
2026年1月12日、月曜日。今年も「成人の日」がやってきました。
かつて、この日のニュースといえば、改造車で会場に乗り付けたり、市長の挨拶中に騒いだりする「荒れる新成人」の映像が風物詩のように報じられていました。しかし、令和8年を迎えた現在、そのような光景は劇的に減少し、驚くほど静かで、かつ個人的なイベントへと変質しています。
成人年齢が18歳に引き下げられてから約4年。法制度と儀式の間に生まれた「ねじれ」の中で、Z世代の若者たちはどのようにこの「節目」を捉えているのでしょうか。彼らの行動原理である「コスパ(コストパフォーマンス)」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」、そして「推し活」といったキーワードを軸に、2026年の成人式のリアルな実態を紐解いていきます。
18歳成人と20歳式典の「ねじれ」が定着した背景
なぜ「18歳での式典」は実現しなかったのか
2022年4月の民法改正により、成年年齢は20歳から18歳へと引き下げられました。法的には18歳で「大人」となり、親の同意なく契約ができるようになったり、10年有効のパスポートが取得できるようになったりしています。論理的に考えれば、成人式も「18歳」で行うのが自然な流れのように思えます。
しかし、2026年の現在に至るまで、横浜市をはじめとする大多数の自治体は、式典の対象年齢を「20歳」に据え置いています。これには、極めて現実的で切実な理由がありました。
最大の要因は「受験・就活とのバッティング」です。18歳の1月といえば、多くの若者にとって高校3年生の冬。大学入学共通テストの直前であり、私立大学の一般入試や、高校卒業後の就職に向けた準備の最終局面に当たります。人生を左右するこの時期に、振袖の準備や式典への参加を強いることは、当事者にとっても保護者にとっても負担が大きすぎると判断されたのです。
「二十歳のつどい」への名称変更と自治体の対応
対象年齢を20歳に維持する一方で、名称には変化が生じました。「成人式」という言葉は法的に18歳を指すため、20歳の式典に使うのは不正確になります。そのため、多くの自治体が「二十歳のつどい」や「二十歳を祝う会」といった名称に変更しています。
この名称変更は単なる言葉遊びではありません。「法的な成人」としての自覚を促すタイミング(18歳)と、地域社会や旧友とお祝いをする文化的・儀礼的なタイミング(20歳)を明確に切り分けるという、社会的な合意形成の結果と言えます。
その結果、若者たちの間では「18歳で権利を得て、20歳で振袖を着て祝う」という2段階の成人プロセスが定着しつつあります。18歳では実感の湧かなかった「大人になった感覚」を、20歳の式典やお酒の解禁と合わせて初めて実感するというケースも少なくありません。
「行かない」という合理的な選択とZ世代の価値観
「コスパ・タイパ」で測る式典の価値
近年の顕著な傾向として、式典への参加率の低下が挙げられます。もちろん、依然として過半数の若者は参加しますが、3割近くが「不参加」を選択しているというデータも見られます。
ここで注目すべきは、彼らが「なんとなく行かない」のではなく、明確な理由を持って「行かない選択」をしている点です。
Z世代は、時間(タイム)と費用(コスト)に対する効果(パフォーマンス)をシビアに見積もります。彼らの視点に立てば、数十万円の振袖代や着付け代を払い、早朝から準備をして、会いたくもない同級生や知らない来賓の話を聞くために数時間を費やすことは、必ずしも「割に合う」投資とは映りません。
「準備が面倒」「わざわざ集まる意味を感じない」といった理由は、単なる怠惰ではなく、「自分にとって価値のある時間にリソースを割きたい」という合理的な判断の結果なのです。
飲み会離れと「二次会」の変容
式典後の「二次会」の風景も様変わりしました。かつては居酒屋での大宴会や、泥酔してのトラブルが付き物でしたが、Z世代の「アルコール離れ」はここでも鮮明です。
「あえて飲まない(ソバーキュリアス)」というライフスタイルが浸透しつつある彼らにとって、無理にお酒を飲む場は敬遠されます。
その代わりに見られるのが、カフェでの「ヌン活(アフタヌーンティー)」や、少人数の親しいグループだけで行くカラオケや食事会です。
大人数の同窓会で気を遣うよりも、気心の知れたメンバーだけで、写真映えするカフェでゆったりと過ごす。ここでも「無理なつながり」よりも「心地よい個人の時間」を優先する傾向が見て取れます。
振袖よりも「推し活」?新しい祝いのカタチ
式典には参加しない層の間でも、成人のお祝い自体をしなくなったわけではありません。彼らが熱心に取り組んでいるのが「推し活」との融合です。
振袖や袴姿で、自分が応援しているアイドルやアニメキャラクターのアクリルスタンド(アクスタ)、ぬいぐるみ、うちわと一緒に写真を撮るスタイルが急速に普及しています。
「高いお金を払って式典に行くより、推しのライブに行きたい」「推しカラーの振袖で、推しグッズと一緒に最高の一枚を残したい」。
彼らにとっての「ハレの日」は、地域社会へのデビューではなく、自分自身と「推し」との記念日としての意味合いを強めています。帯にアクスタを挟んで撮影したり、推しのメンバーカラーで全身をコーディネートしたりすることは、Z世代ならではの自己表現であり、伝統文化を自分たち流にアップデートした姿とも言えるでしょう。
「荒れる」よりも「映える」を目指す若者たち
激減した「暴れる新成人」とデジタルタトゥーへの恐怖
2000年代から2010年代にかけてメディアを賑わせた、派手な衣装で暴れる新成人の姿は、2026年の今、ほとんど見られなくなりました。沖縄県警などのデータを見ても、検挙数は減少傾向にあります。
この背景には、スマートフォンの普及による「デジタルタトゥー」への強い警戒感があります。
現代の若者は、一度ネット上に拡散された画像や動画は半永久的に消えないことを熟知しています。式典で暴れたり、非常識な行動をとったりすれば、その様子が即座に撮影され、SNSで拡散され、就職活動や将来の生活に致命的な悪影響を及ぼすリスクがあります。
Z世代にとって、リスクを冒してまで目立つことは「割に合わない」行為であり、何より「ダサい」こととして認識されています。彼らの承認欲求の満たし方は、物理的な暴走ではなく、SNS上での洗練されたビジュアルの発信へと移行したのです。
2026年のトレンドは「淡色」と「調和」
この「目立ちたくないけど、認められたい」という心理は、2026年の振袖トレンドにも色濃く反映されています。
今年の人気カラーは、白、ベージュ、そしてくすみカラー(ニュアンスカラー)の緑やピンクです。かつて主流だった鮮やかな赤や黒、金といった強い色に比べ、周囲と調和し、柔らかい印象を与える色が好まれています。
また、スタイリングにおいても「和洋折衷」が進んでいます。襟元にレースを入れたり、足元をブーツにしたり、パールのアクセサリーを合わせたりと、伝統的なルールに縛られない自由な着こなしが人気です。
しかし、その自由さは奇抜さに向かうのではなく、あくまで「自分に似合う」「写真映えする」方向へと向かっています。「荒れる」エネルギーは影を潜め、洗練された「映える」世界観を作り上げることこそが、彼らにとってのステータスなのです。
SNSでの承認欲求と「FOMO(取り残される不安)」
一方で、SNS時代の新たな悩みも生まれています。式典に行かないという合理的な判断をしたはずなのに、当日にInstagramやTikTokで友人の華やかな振袖姿を見ると、「やっぱり行けばよかったかも」と後悔する若者が一定数存在します。
これは「FOMO(Fear Of Missing Out:取り残される不安)」と呼ばれる心理現象です。
他者のキラキラした投稿と比較して、自分が体験の機会を損失したように感じてしまう。式典という儀式そのものには価値を感じていなくても、「みんなが参加している承認の場」に参加しなかったことへの疎外感は、Z世代特有の悩みと言えるかもしれません。
市場も変化!フォト成人式と家族の絆
写真で残す「フォト成人式」の隆盛
式典参加率の低下とは対照的に、盛り上がりを見せているのが「フォト成人式」の市場です。
「式典には出ないけれど、写真は残したい」「当日はバタバタするから、前撮り・後撮りでゆっくり撮影したい」というニーズに応え、フォトスタジオのサービスは高度化しています。
映画のセットのような背景での撮影や、プロによるヘアメイク、さらには肌をきれいに見せるデジタル修正技術など、クオリティへのこだわりは年々高まっています。ここでは「モノ(振袖の所有)」よりも「コト(体験とデータ)」への消費シフトが明確に現れており、一生に一度の姿を最高のクオリティでデジタルデータとして残すことに、若者たちは価値を見出しています。
親への感謝を伝える「節目」としての機能
「荒れる」ことが減り、内向きになったと言われる成人式ですが、ポジティブな変化もあります。それは、成人式を「親への感謝を伝える機会」と捉える若者が増えていることです。
振袖費用の多くを親が負担しているという経済的な事情もありますが、それ以上に、現代の親子関係の良好さが背景にあります。
SNS上では、晴れ着姿の写真とともに「ここまで育ててくれてありがとう」「パパママ大好き」といったメッセージが数多く投稿されます。反抗期を経て自立する物語よりも、友達のような親密な関係を維持したまま、感謝を持って大人になるスタイルが主流です。
フォトスタジオのプランでも、家族写真をセットにしたものが人気を集めており、成人式は個人の自立を祝う場であると同時に、子育ての卒業式としての側面を強めています。
ママ振袖とリメイク文化の広がり
また、母親がかつて着た振袖、いわゆる「ママ振袖」を着るケースも増えています。
これは単なる節約志向だけではありません。バブル期などに作られた質の良い着物を、現代風の帯や小物でアレンジして着こなすことが、他人と被らない「個性」としてポジティブに捉えられているのです。
古いものを大切にしつつ、自分らしさを加える。サステナブルな視点を持つZ世代にとって、ママ振袖のリメイクは非常に相性の良い選択肢となっています。
まとめ
2026年の成人の日は、かつての集団的な熱狂から、個人の価値観に基づいた静かで多様な祝いの場へと完全にシフトしました。
「コスパ・タイパ」を重視して式典に参加しないことも、推しグッズと一緒に写真を撮ることも、あるいは家族と静かに食事をすることも、すべては彼らが大人として自律的に選んだ「正解」です。
形は変われど、人生の節目を祝う気持ちや、育ててくれた人への感謝の念が消えたわけではありません。社会全体で、デジタルネイティブであり、堅実で、少し繊細な彼らの門出を、彼らが望む形で見守り、祝福していくことが、これからの「成人の日」に求められている姿勢ではないでしょうか。
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