初任給アップの前に、社長が気づくべき「社員との目に見えない約束」
その一手、誰のため?
最近のニュースで、「中小企業の7割が初任給を引き上げた」という話、目にした方も多いんじゃないでしょうか。
新卒採用で学生から選ばれるためには、ある程度の給与水準が必要なのは間違いありません。ネット上でも「この金額じゃ生活できない」とか、「大企業との差がありすぎる」といった声が飛び交っていて、時代の流れを無視するわけにもいかない。
とはいえ、ここでちょっと立ち止まって考えてみてほしいんです。
それ、誰のための施策なんでしょうか?
もちろん「人材を確保するため」というのはわかります。でも、初任給アップの決断が、意図せずして「今働いてくれている社員たち」を置き去りにしているケース、意外と多いんです。
空気が変わるのは、金額じゃない
給料のことって、なかなか表では話題にしづらいですよね。
でも、社内での会話って、意外とあなどれない。
たとえば、ある社長が新卒採用を強化するために、初任給を3万円アップしました。これまで21万円だったのを24万円に。求人票にその金額を載せた途端、応募が増えて、選考も順調に進みました。狙い通りです。
でも、社内ではこんな会話が始まったそうです。
「俺ら、何年働いても5000円も上がってないのに、新人は最初から24万か…」
「頑張って結果出しても報われないよな…」
そう、小さな不満が静かに、でも確実に広がっていくんです。
人って、「金額」そのものよりも、「納得感」で動いてるんですよね。
たとえ月に数千円の差でも、「自分たちが大事にされていない」と感じたら、それはもう数字以上の問題になってしまう。まるで、目に見えない空気が一気に変わるように、モチベーションが下がっていくんです。
信頼を壊すのは、数字じゃなく“ズレ”
ここでちょっと「心理的契約」という考え方を紹介させてください。
これは、企業と社員との間に交わされる“暗黙の約束”のことを指します。契約書には書かれていないけれど、入社時や日々のやりとりの中で、社員が「会社はこうしてくれるはず」と信じている内容ですね。
たとえば、
「長く勤めていれば、それなりに評価されるはず」
「自分の成果はちゃんと見てくれるだろう」
「新人よりも、古株の自分の方が優先されるだろう」
こんな“期待”を社員は勝手に持っています。でも、これって会社としては意識していないことも多いんですよね。
で、問題はその“ズレ”が起きたときです。
期待していた評価がもらえなかったり、新人の方が手厚くされているように感じた瞬間、社員の中で「契約違反だ」と心が離れていくんです。
「俺って、会社にとってはその程度か」
その一言が、ベテラン社員の口から漏れたときには、もう手遅れかもしれません。
給与よりも大切な“社長の目線”
じゃあどうすればいいのか?
正直、全社員を一律で昇給させられるほど、中小企業の体力はないですよね。だからこそ必要なのが、「どう伝えるか」「どこに配慮するか」なんです。
まずやってほしいのは、初任給アップの前後に、既存社員とのコミュニケーションをきちんと設けること。
・なぜ今、新卒の初任給を引き上げるのか
・既存社員の待遇については、どう考えているのか
・これから、どんな評価制度や昇給の機会を作っていくつもりなのか
こういう話を、社長自身の言葉で、ちゃんと伝えてほしいんです。
社員はね、「金額」よりも、「社長が自分たちをどう見てくれているか」を感じ取っています。
面と向かって「あなたの存在はとても大きい」と言われれば、それだけで救われる人もいる。お金じゃないところで築ける信頼関係って、実はたくさんあるんですよ。
心の火を絶やさないために
初任給を上げる。それ自体は、時代の流れに合った、前向きな判断です。
でも、それによって「今ここにいる社員たち」のやる気が削がれてしまったら、本末転倒ですよね。
新しい人を迎え入れるときこそ、今いる人をもっと大切にするチャンスなんです。
社長という立場だからこそ、数字だけでは測れない“空気”を読み取ってください。
たとえば、こんな問いを自分に投げかけてみてほしいんです。
「この決断、社員たちはどう受け取るだろうか?」
「自分が社員だったら、どう感じるだろうか?」
「“言わずとも伝わる”と思って、何も言っていないことはないだろうか?」
答えは、必ず現場にあります。
社員との対話の中に、あります。
今日からできる3つのアクション
最後に、社長として今すぐ実行できるシンプルな3つの行動を提案させてください。
- 既存社員に感謝と期待を直接伝える(できれば言葉で、難しければ社内メッセージでもOK)
- 「初任給引き上げ」の意図と、それによる今後の制度整備を社内で共有する
- 年1回ではなく、四半期に1度「社長の想い」を伝える機会をつくる
大げさな施策じゃなくていいんです。
ほんの少しの配慮が、社員の心に火を灯します。
その火が、組織の温度を決めていくんです。
採用市場が厳しくなる中で、目の前の数字に振り回されがちになります。
でも、数字の前に、人がいる。人の前に、信頼がある。
そんな原点を、どうか忘れないでくださいね。
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