「とりあえず給料もらえればいいや」が蔓延する会社の末路
一見穏やか、でも中身は“熱のない職場”
「辞めるとは言ってないし、特に不満も聞いてない」
「とりあえず毎日出社してるし、指示すればちゃんと動く」
「でも…なんだか空気が重い。会話も減った気がする」
そんな違和感、覚えがありませんか?
実は今、全国の企業でひそかに進行しているのが「静かな退職(quiet quitting)」です。
働く意欲がゼロなわけじゃないけれど、「求められたことだけやっていればいいでしょ」と、最低限しかやらない。
ガツガツ動くわけでもないし、反発もしない。
けれど、何かを提案することも、自分から関わることもない。
言うなれば、“生きてるけど死んでる”社員が、オフィスのあちこちに存在している状態です。
この「とりあえず給料もらえればいいや」モード。
じつは、辞めてしまう社員よりも、ずっと厄介かもしれません。
なぜなら――
会社の空気を静かに腐らせるからです。
やる気の火が消えた職場が抱える“見えないコスト”
静かな退職の問題点は、「目に見えにくいこと」。
だからこそ、多くの経営者や管理職が見落としがちなんです。
売上が急激に落ちるわけでもない。
クレームが急増するわけでもない。
でも、確実に起こっているのは、
・アイデアが出なくなる
・議論がなくなる
・「なんとなくやってる」人が増える
・チャレンジする人が減る
・成果に波が出にくくなる
・新人が育たない
そして気づいたときには、こうなっているんです。
「採用しても、なぜか活気が出ない」
「リーダー候補が育たない」
「社内に希望や目標がない」
まるで、誰かが職場に“無気力ガス”を撒いたかのように。
やる気って、意外と空気感染するんです。
1人が冷めていると、隣の人もだんだん無言になる。
「なんで自分だけ頑張ってるんだろう」って疑いが芽生える。
こうして、全体がじわじわ沈んでいく。
しかも、問題は“表面化しない”からやっかい。
社員の本音は口にされず、「まあ、給料もらえるし」と淡々と日々を過ごすだけ。
だから、経営者や上司が気づくころには、もう熱はほとんど残っていないことも多いんです。
あの会社で起きた“静かな退職”の連鎖
ここで、ある中小企業で実際に起きたエピソードを紹介します。
その会社は、IT系の開発ベンチャー。社員数は30名ほど。
もともと活気のある会社でしたが、ある時期から「会議で発言が減った」「指示待ちの社員が増えた」という変化が起こり始めました。
原因は、ある管理職の異動でした。
その人は、いわゆる“実務派”。
仕事は正確で、効率も良く、言われたことはきっちりこなすタイプ。
でも、部下との会話はほとんどなく、目標設定やフィードバックも最低限。
「俺がやった方が早いから」で、業務を抱え込みがちでした。
部下たちは、次第に「自分の意見は必要ないんだ」と感じ始め、
提案も発言も少なくなっていきました。
そのうち、「とりあえずやればいいんでしょ」という空気が蔓延。
やがて、会議での沈黙が常態化。
チャットのやりとりも減り、「空気だけが重たい職場」に。
最終的に、数名の若手社員が立て続けに退職しました。
「ここにいても、自分が成長する未来が見えなかった」と言って。
これが、“静かな退職”の末路です。
誰も声を荒げて辞めたわけではない。
でも、確実に“熱”が失われ、優秀な人からいなくなっていった。
熱を取り戻すために、必要なのは“意味の再設計”
この問題の本質は、社員のやる気がないことではありません。
むしろ、多くの社員は「頑張りたい気持ち」は持っているんです。
ただ、それが“発揮される環境”になっていない。
人が動くのは、納得できる理由があるとき。
「この仕事は、誰のために、何のためにやっているのか?」
「自分の仕事に意味があるのか?」
この問いに答えられないと、エネルギーは湧きません。
そこで必要なのは、マネジメントの“意味の再設計”です。
・業務の背景を説明する
・成果が誰の役に立っているかを共有する
・小さな成長をフィードバックする
・「気づき」を言語化してシェアする文化をつくる
たとえば、ある企業では「今月いちばん“ありがとう”を言われた人」を毎月発表しています。
数字やKPIじゃなく、“誰かの役に立った実感”を軸にした取り組みです。
これを始めてから、社員の表情が変わったそうです。
「自分の仕事に価値がある」と実感できるだけで、こんなにも人は動き出すんだと。
意味のある場所には、人は自然と集まります。
逆に、意味のない場所からは、静かに離れていきます。
だから、まず問いかけよう。「うちの職場、熱ある?」
「辞めたい」と言われる前に。
「辞められてしまった」と嘆く前に。
今こそ、自分の会社を見てみませんか?
・社員同士の会話に熱はあるか?
・部下の目が輝いている瞬間を、最近見たか?
・頑張っている人を、きちんと“意味ある言葉”で称えているか?
・やることの背景や目的を、きちんと共有できているか?
この問いに「うーん」と詰まったら、静かな退職はもう始まっているかもしれません。
会社は、仕組みだけじゃ動きません。
人が心から動くとき、初めて組織が前に進みます。
「とりあえず給料もらえればいいや」
そんな言葉が当たり前になった職場では、未来はつくれません。
逆に言えば、その空気を変えるのは、
社長や上司が“意味ある一言”を発するところから始まります。
たった一言で、沈んでいた職場に火が灯ることだってあるんです。
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