なぜ採用ページから“疲れた空気”が漏れているのか
見せたいものと、にじみ出るもの
企業の採用ページって、いわば“会社の玄関”みたいなもの。
誰かがインターホンを押す前に、「この家、入りたいな」と思わせるものかどうかって、実はめちゃくちゃ大事なんですよね。
でも最近、いろんな企業の採用サイトを見ていて、ふと思ったんです。
「うわ、この会社、なんか…疲れてるな」
デザインがダサいとか、情報が少ないとか、そういう話じゃなくて。
見た瞬間にふわっと伝わってくる“空気”が、どこか重い。
働くことが大変そう、余裕なさそう、ガツガツしてそう。
ページには「人を大切にしています」「風通しのいい職場です」って書いてある。
でも、載ってる社員の顔がどこかこわばってたり、文章がやたら気合い入ってたりして、「あ、この会社、がんばりすぎてるな」って感じるんです。
これ、求職者にも確実に伝わってます。
いやむしろ、経営者よりも先に、若手はそれを敏感に察知してるかもしれません。
“がんばってます感”が、逆に怖い時代
ちょっと想像してみてください。
あなたがもし、20代の若手だったとして、企業の採用サイトを開いたとき…
・一番最初に表示されるのが、「目標達成率●%!数字で語る私たち」
・やたら多い「全力」「挑戦」「突破」みたいな熱いワード
・社員インタビューの見出しが「朝から夜まで走り続けています」
・社長のメッセージが、やけに長くて、やけにアツい
これ、どう感じますか?
「ここで働きたい」と思うでしょうか?
確かに、会社としては「やる気があること」を見せたい。
「がんばってる姿勢」を伝えたい。
でも、それが行きすぎると、見る側にはこう見えるんです。
「あ、この会社、根性で回してるんだな」
「仕事=人生、みたいな雰囲気があるな」
「多分、休みにくいだろうな…」
「気合いの文化、きつそう」
で、そっとページを閉じる。
そう、今の若者って、“言葉じゃなくて空気”で判断するんです。
どれだけカッコいいキャッチコピーを並べても、雰囲気がしんどそうだったら、それだけで「無理」ってなる。
しかも、今どきの若手って、本当に“察しがいい”。
表情の硬さ、写真の距離感、テキストのテンション。
そういう細かいところから、「この会社、優しいか?しんどいか?」を読み取ってる。
応募が止まった、あの会社の採用サイト
ある中小企業の話です。
その会社は、地域密着の製造業で、社員数は50人ほど。
働いてる人たちは真面目で誠実、技術力も高くて、社内の雰囲気も悪くない。
にもかかわらず、ここ3年間、新卒の応募がゼロ。
中途でも、エントリーが激減。
社長は悩みに悩んで、プロの採用コンサルに相談しました。
そして言われたのが、まさかの一言。
「採用サイトの“空気感”が、しんどそうなんです」
その会社の採用ページには、こう書いてありました。
「創業50年、地道にコツコツ、お客様に誠実に」
「朝は7時から掃除、夜は部門ごとに反省会」
「ミスを防ぐため、日報は手書きで提出」
「1年目は下積み。まずは黙って見て覚える」
これ、昭和の体育会系じゃん…!とまでは言わなくても、
「ここ、息苦しそうだな…」と若手が感じてしまうのも無理はない。
しかも、載っている社員の写真が、誰一人笑っていない。
まじめで正しいのに、ぜんぜんワクワクしない。
その後、その会社はサイトをリニューアルしました。
・社員の“素”の笑顔を撮影し直し
・「地道」より「手触り」「やりがい」を言語化
・新人の声や、小さな成長エピソードを入れた
・社長メッセージを短くして、“安心感”を重視
結果、次の年には新卒エントリーが6件、中途応募も増加。
サイトを通じて、会社の“空気”が伝わるようになったんですね。
デザインより、“温度”を伝える設計へ
ここで伝えたいのは、「デザインを変えましょう」とか「若者ウケする言葉にしましょう」という話じゃないんです。
大事なのは、
“この会社で働いたら、自分はどんな気持ちになるか?”
という未来の感情を、応募者に想像させること。
そのためには、数字じゃない。実績でもない。理念でもない。
必要なのは、“温度感”。
・ちょっとした社内の笑顔
・普段着のような言葉
・失敗や試行錯誤を素直に語るインタビュー
・働く人が、自分の生活を大事にしている姿
・「楽しいことも、しんどいこともあるよ」と正直に書く誠実さ
これがあると、見る人は「あ、この会社、ちゃんと人間的だな」と感じます。
逆に、「完璧な会社」「がんばりすぎる会社」は、見ている側にプレッシャーを与える。
「ついていけないかも…」と思われて、そっと離れていく。
今の時代、求職者にとっての安心材料は、「働く人たちにちゃんと余白があるかどうか」です。
空気が柔らかい会社は、ちゃんと伝わる
結局のところ、採用サイトって“会社の人柄”がにじみ出る場所なんですよね。
気合いを入れてつくればつくるほど、逆に「熱苦しい」「隙がない」「疲れてる」と伝わることがある。
だからこそ、大事なのは「抜く」ことでもあります。
・完璧じゃなくていい
・飾りすぎなくていい
・ありのままの空気を伝える勇気を持つこと
人は、空気で会社を選びます。
「この会社、なんかいいな」っていう直感は、案外、正しい。
そしてその“なんかいい”は、写真の距離感、文のやわらかさ、掲載されている人たちの自然な表情から伝わるんです。
もし、採用がうまくいっていないと感じるなら。
まずは、自社の採用ページを「はじめて見た人」の目で見てみてください。
そこに、温かさや余白はあるでしょうか?
見る人が「この会社なら、ちゃんと人間でいられそうだ」と思えるか。
それが、いちばんの採用力かもしれません。
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