user uploaded photo

「怖い」と言われる患者さん、実は“狙われる側”だった

0
削除
とわの恵

「10分の距離なのに、30分もかかったんです」
ある日、Aさんがふと漏らしたその言葉が、
私たちの現実を変えました。

開放病棟だった頃、病院の近くの木陰に、
タクシーが2~3台いつも停まっていました。

私はそれを、ただの休憩だと思っていたのですが、
実は——“待ち伏せ”だったんです。
狙いは、統合失調症の患者さん。

タクシーの運転手は行き先を聞き、
あえて遠回りをして、
いつもより多くのお金を請求していたんです。

強く言えない患者さんだと知ってて
ぼったくる悪徳タクシー、
どう思いますか?

最初に異変を教えてくれたのは、患者さん自身でした。
Aさんは、普段なら10分で着くはずの距離を、
なぜか30分かけて運ばれ、
「なんだか変だった」と話してくれました。

最初は、ただの勘違いかもしれないと思いましたが、
帰り道が妙に複雑だったこと、
いつもと違うルートを通ったことを、
Aさんははっきり覚えていたんです。

さらに、似たような訴えが続出。

Bさんは
「駅まで1500円のはずが、3000円も請求された」と
困惑していたし、

Cさんは
「運転手が“近道するね”と言いながら、
知らない道をぐるぐる回って、結局遠回りだった」と
教えてくれました。

患者さんは、一見するとごく普通の方たちです。
けれど、状況判断が難しかったり、
言葉がスムーズに
出てこなかったりすることもあります。

そんな彼らの“弱さ”につけ込む人たちが、
現実にいることを、
私たちは目の当たりにしました…。

統合失調症の患者さんは、
心根が優しく純粋です。

だからこそ、
「おかしいな」と思っても、
自分の認識を疑ってしまい、
声に出すことが難しいことがあります。

そのため、小さな「違和感」の声にも、
私たちが耳を傾けることが、何よりも重要なんです。

もちろん、
医療者として“妄想”と“現実”
区別をつけることは大切です。

私達は、日々一緒に過ごす中で、
患者さんの人柄や特徴を自然と理解していき、
“本当かどうか”が、
ちゃんと分かるようになっていきます。

あのとき、
もし患者さんたちが話してくれなかったら、
私たちはこの事実に気づけませんでした…。

実は、タクシー問題は他にもあって(別の話で取り上げます)、
病院では、信頼できるタクシー会社と提携し、
院内に直通電話を設置するなどの対策をとりました。

その後、
病院は閉鎖病棟へと変わりましたが、
現場の声に耳を傾けることの大切さは、
今も変わりません。

社会の中で、
弱い立場の人を守るために大切なことは、

・まずその人の声を信じること。

・「おかしい」と感じる直感を尊重し、
  無視せず、行動すること。

今回は患者さんたちの勇気ある告白が、
病院のシステムを動かしました。

ただ、今思うと、
もし、タクシーから降りる際、
金額がおかしい!
遠回りじゃないか!と
その場で患者さんが、運転手に直接話していたら…

たぶんもめ事になり、
タクシー運転手が警察に通報したり、
患者さんを
警察につれて行ったかもしれません。

運転手は自分が悪くても、
どうとでも理由をでっち上げられるから、
患者さんを悪者にするのは簡単です。

でも患者さんは、
そこまで考える事は正直難しいので、
上手く反論できませんし、
事実を言っても、
取り合ってくれないのが当時の現状です。

そして、
「ほらな、やっぱり精神科だもんな!」と
運転手に言われて終わっただろうと思います。

そう、「偏見」というものが根強くあるから…。

だからと言って、
全てのタクシー運転手さんが、そうではありませんよ!

今、提携してるタクシー会社はもちろんのこと、
理解ある運転手さんはたくさんいます。
本当に感謝です。

患者さんの一声から明らかになった現状、
あなたはどう感じましたか?

0
削除
うつ病はひとくくりにできない病気
とわの恵
精神科Ns歴25年以上。精神科が大好きです。消化器内科・外科の経験あり。子育て4人。思春期の反抗の無い子育て「I love youの子育て」実践。Kindle電子書籍を出版。ベストセラー獲得あり。
このユーザーの人気記事
コメント

まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?

コメントを投稿するには、ログインする必要があります。

ページトップへ