【50年続く欺瞞】ガソリン税の不都合な真実。なぜ私たちの負担は減らないのか?
給油のたびに「高いな」と感じるガソリン価格。その価格の約4割が税金だという事実をご存知でしょうか 。さらに、その税金には50年前に「一時的」なはずで導入され、今なお国民に重くのしかかる「暫定税率」という名の不可解な上乗せ分が含まれています 。
物価高が家計を直撃する中、この「暫定税率」の廃止を求める声がかつてなく高まっています。野党8党は暫定税率を11月1日に廃止する法案を共同で提出する方針を固め、「それより先は許さない」と政府・与党に強く迫っています 。
なぜ「暫定」のはずの税金が半世紀も続き、私たちの負担は減らないのか。この記事では、複雑なガソリン税の構造から、その歴史に隠された「目的のすり替え」、そして政治の思惑まで、問題の核心を徹底的に解き明かしていきます。
給油ポンプの裏側:ガソリン価格を解剖する
私たちが支払うガソリン価格は、単純な商品代金ではありません。そこには幾重にも税金が上乗せされています。特に問題視されているのが「暫定税率(現在は特例税率)」と「二重課税」という二つの大きな矛盾です。
1. そもそもガソリンにかかる税金とは?
ガソリン1リットルあたりの価格には、主に以下の税金が含まれています。
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ガソリン税(揮発油税+地方揮発油税):53.8円
- 本則税率:28.7円 これが本来の税率です 。
- 特例税率(旧暫定税率):25.1円 これが問題の上乗せ分です 。本来の税率に匹敵する額が「特例」として課されています。
- 石油石炭税:2.8円 地球温暖化対策のための税金なども含まれます 。
これだけで、ガソリン1リットルあたり合計56.6円もの税金が課されていることになります。
2. 許しがたい「Tax on Tax」=二重課税問題
さらに不可解なのが、消費税の課税方法です。消費税10%は、ガソリン本体の価格だけでなく、上記で説明したガソリン税と石油石炭税の合計56.6円を含んだ金額に対して課税されます 。
これは、日本自動車連盟(JAF)などが長年「Tax on Tax」と強く批判してきた「税金に税金を課す」二重課税の状態です 。法的には合法とされていますが、国民感情としては到底受け入れがたい仕組みであり、不満の大きな原因となっています 。
「暫定」が「恒久」に化けた50年史
では、なぜ本来の税率に匹敵するほどの「暫定税率」が、50年もの長きにわたって続いているのでしょうか。その歴史は、国民への説明責任が果たされないまま、税の目的がすり替えられてきた過程そのものです。
始まりは1974年「道路整備」という大義名分
暫定税率が導入されたのは1974年。高度経済成長に伴う自動車の急増で、道路網の整備が急務となっていました 。そこで、「道路整備の財源を確保する」という明確な目的を掲げ、あくまで「暫定的な措置」としてガソリン税が引き上げられたのです 。
この「道路特定財源」は、自動車利用者がインフラ整備の恩恵を受けるのだから、その費用を負担すべきだという「受益者負担」の考え方に基づいたものでした 。この財源によって日本の道路網は飛躍的に整備され、地方の生活道路の維持や除雪費用などにも充てられ、地方自治体にとって不可欠な財源となっていきました 。
転換点となった2009年「目的のすり替え」
歴史が大きく動いたのは2009年です。政府は「道路特定財源制度」そのものを廃止し、税収を国の一般会計に組み込む「一般財源化」を決定しました 。これにより、税金とその目的であった「道路整備」との法的なつながりは完全に断ち切られました。
本来であれば、目的を失った暫定税率は廃止されるべきです。しかし、政府は驚くべき手法をとりました。「暫定税率」という名前を廃止する一方で、即座に同額の「特例税率」を創設したのです 。
名前を変えただけで、国民の負担は1円も減りませんでした。これは、税の正当性を支えてきた「受益者負担」という社会契約を一方的に破棄し、歳入だけを確保するための巧妙な「目的ロンダリング」に他なりませんでした。国民への十分な説明もないまま、税の本質が不透明な形で変質させられた瞬間です。現在の国民の怒りの根源は、この不誠実な対応にあると言えるでしょう。
なぜ使われない?国民を守るはずの安全装置「トリガー条項」
実は、ガソリン価格の異常な高騰から国民生活を守るための「安全装置」が、法律には存在します。それが「トリガー条項」です。しかし、この命綱は一度も使われることなく、政治の氷庫に眠り続けています。
トリガー条項とは?
トリガー条項とは、2010年に導入された自動的な減税措置です 。その仕組みは、「ガソリンの平均小売価格が3ヶ月連続で1リットル160円を超えた場合、問題の特例税率分(25.1円)の課税を自動的に停止する」というもの 。これが発動すれば、政治的な判断を待たずに、国民の負担は機械的に軽減されるはずでした。
なぜ凍結され続けるのか?
この条項は、導入翌年の2011年に起きた東日本大震災の復興財源を確保するという理由で、特別法によって凍結されました 。当時は国民的な理解が得られた措置でしたが、問題は震災から10年以上が経過し、物価高という全く異なる危機に直面している現在も、凍結が解除されないことです。
政府は「発動すれば市場が混乱する」などと説明しますが 、本当の理由は別にあります。それは、トリガー条項を発動すれば、年間約1.5兆円もの安定した税収を失うことになるからです 。政府・財務省は、この歳入減を極度に恐れ、「復興」という誰も反対しにくい論理を盾に、国民負担の軽減を拒み続けているのです。トリガー条項は、政府の財政的硬直性の「人質」に取られていると言っても過言ではありません。
経済全体の足かせとなるガソリン税
ガソリン税の問題は、車に乗る人だけの問題ではありません。それは見えない形で経済全体の血流を滞らせ、最終的にすべての国民の生活を圧迫しています。
ガソリン価格の上昇は、トラック運送、漁業、農業といったあらゆる産業のコストを押し上げます 。そして、そのコストは最終的に製品やサービスの価格に転嫁され、食料品や日用品など、あらゆるものの値段を吊り上げます。つまり、車を運転しない人でも、物価高という形で間接的にガソリン税の負担を強いられているのです。
この状況下で、本来は「暫定」であったはずの25.1円の税負担を国民に課し続けることは、政府自らが物価高を助長しているに等しい行為です。もはやガソリン税は、国民生活を圧迫するインフレの主要因の一つとなっているのです。
まとめ:問われるのは政治の誠実さ
ここまで見てきたように、ガソリン税に上乗せされている特例税率(旧暫定税率)は、その存在理由を完全に失った時代錯誤の税金です。政府・与党は「代替財源がない」と改革に抵抗しますが 、野党は「行政の無駄を削減すれば財源は確保できる」と反論しています 。
この問題を解決できるかどうかは、まさに政治の意志にかかっています。私たち国民一人ひとりがこの問題に関心を持ち、声を上げ続けることが、不合理な税制を変えるための最も大きな力となるでしょう。
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