出戻り採用の落とし穴。“歓迎ムード”を装った職場の本音
「社長、アイツ戻ってくるってほんとですか?」
そう聞かれてドキッとしたこと、ありませんか?
人手不足が深刻になっている今の時代。求人広告を出しても全然応募が来ない。面接しても即辞退。入ってもすぐ辞める…。そんな悩みを持つ中小企業の社長さん、多いですよね。
そんなときに、ふと連絡が来るわけです。
——あの辞めた社員から。
「社長、もう一回、働かせてもらえませんか?」
戦力だったし、仕事も覚えてるし、正直助かる…。でも、ちょっと待ってください。出戻り採用、つまり“元社員の再雇用”って、実はけっこう、職場の空気を揺らす爆弾だったりするんです。
パッと見、円満。でも実はザワついてる
表向きは、現場の人たちも「おかえりなさい」「また一緒に頑張りましょう!」なんて言ってくれます。
でも…本音はどうでしょう?
・「なんであの人だけ、また戻れるの?」
・「一度辞めた人に、またチャンスがあるってズルくない?」
・「あの人のせいで雰囲気悪くなったの、忘れてないんだけど…」
実際、僕のところにも何社もの社長さんから、こんな相談がきています。
「辞めた人を戻したら、空気がピリッとして…。でも誰も文句言ってないんですよ?」
それ、言えないだけです。表ではニコニコしてても、内心はモヤモヤしてる。
これが、“歓迎ムードを装った職場の本音”。
まるで、お祭りのあとに残った冷たい空気みたいに、見えにくいけど確実にそこにあるんです。
実際にあった話:再雇用で職場の雰囲気が一変
ある製造業の社長さんが、以前うちのセミナーに来てくれたときの話。
業績も上がってて、人手が足りない。そんなとき、2年前に辞めた職人さんから連絡が来ました。理由は「転職先が合わなかったから戻りたい」と。
即採用。「アイツの腕は確かだから」と、社長は大喜び。
でも——3か月後、現場がガタガタに。
新しく入っていた若手社員たちが、口を揃えてこう言い出したんです。
「やりづらいです」「話しかけにくい」「自分たちのやり方を否定される」
中には「辞めようかな…」と言い出す子も。
しかも、その出戻りの社員は本人なりに頑張っていたんです。決して悪い人じゃない。でも、「空気を壊してる」っていう無言のプレッシャーがあった。
社長は言ってました。「採る前に、現場のことをちゃんと考えなかったのが反省点だ」と。
出戻り採用でズレやすい“記憶”と“期待”
なんでこうなるのか?
理由はいくつかありますが、大きく分けて以下の3つ。
1. 現場の記憶は、意外と“鮮明”
社長が忘れていても、現場は覚えています。
「遅刻が多かった」「急に辞めた」「忙しい時期にフォローさせられた」
こういうネガティブな記憶って、意外と鮮明に残ってるんですよね。
再雇用って、社長的には「人が足りないから助けてくれる救世主」かもしれません。でも、現場の人からすると「またあの人か…」という印象になってしまうことがある。
2. “過去のポジション”を取り戻そうとする問題
一度辞めた人って、どこかで「前と同じように扱ってくれるよね?」という前提で戻ってくることが多いんです。
でも、組織は日々変わっています。
自分がいなかった期間に、新しいリーダーが生まれていたり、やり方がアップデートされていたり。
そこに、過去の成功体験を持ち込もうとすると、軋轢が生まれる。
例えるなら、転校した生徒が「自分の席、まだ空いてる?」って戻ってきたようなもの。クラスのルールが変わってることに気づかないと、浮いてしまうのは当然です。
3. 「だったら私も辞めて戻るわ」問題
これ、かなり厄介です。
「辞めても戻れるんだ」って空気ができると、今いる社員がこう思い始めるんです。
「ちょっと一回辞めて、他で遊んで、また戻ろっかな?」と。
出戻りを気軽に許す文化をつくると、“辞めグセ”がついてしまうリスクもある。これ、経営的には超危険な兆候です。
じゃあ、出戻りは絶対ダメか?いや、そうじゃない。
ここまで読んで、「じゃあ出戻り採用ってやらないほうがいいの?」って思った人もいるかもしれません。でも、僕は“慎重にやればアリ”だと思ってます。
実際に、うまくいってる事例もあります。
・戻ってくる前に、現場メンバーに正直に話す
・「今回はこういう役割で、こういう期限付きで」など明確なポジションを伝える
・初日から“再スタートの挨拶”を本人にさせる
このあたりをちゃんとやっている会社は、空気の乱れが少ないです。
特に大事なのは、「社長のひとこと」。
「一度辞めた人間をまた迎えるのは、甘い判断じゃない。でも、今回は互いに新しいチャレンジとしてやっていこう」と、空気を整えるリーダーシップが不可欠なんです。
社長が“空気の設計者”になる時代へ
出戻り採用の成否を分けるのは、スキルや経験よりも、“空気”です。
職場の空気は、放っておくとどんどん淀みます。
誰かがピリついていても、それを見て見ぬふりすると、じわじわと広がっていく。
だからこそ、社長が“空気の設計者”として、一歩先を読む力が求められるんです。
「この人を戻すことで、どんな空気が生まれるか?」
「その空気に、今の社員はどう感じるか?」
「戻した後、どう空気を整えるか?」
求人難のこの時代、出戻り採用は確かに貴重な選択肢の一つ。でも、それを“成功の一手”に変えるには、見えない部分にこそ、手をかける必要があります。
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