帰省で親の異変をチェック!冷蔵庫と会話でわかる認知症サイン
「久しぶり! 元気にしてた?」
年末年始、実家の玄関を開けて親の顔を見た瞬間、安心感とともに「あれ、なんだか老け込んだかな?」という一抹の不安を覚えることがあるかもしれません。
離れて暮らしていると、電話の声だけでは親の本当の状態はわかりにくいものです。親自身も子供に心配をかけまいと、「大丈夫、元気だよ」と気丈に振る舞うことが多いため、生活の崩れや心身の不調は隠されてしまいがちです。
しかし、数日間寝食を共にする「帰省」は、親が取り繕いきれない「日常のほころび」が見えてくるタイミングでもあります。
このお正月は、単なる家族団らんの時間にするだけでなく、親の健康状態と生活能力をさりげなくチェックする機会にしてみませんか。
今回は、実家の冷蔵庫や生活環境、会話の端々に現れる「認知症」や「フレイル(虚弱)」のサインと、異変を感じた時に家族がとるべき対応について詳しく解説します。
「元気だよ」は本当? 帰省こそが親の現状を知る「臨床の場」
高齢の親にとって、子供の帰省は嬉しい「ハレの日」です。そのため、到着してすぐは気が張っており、シャキッとしていることが多いものです。しかし、滞在が2日、3日と続くにつれて、その緊張が解け、普段の「ケ(日常)」の姿が現れ始めます。
特に冬場の帰省は、寒さによる活動量の低下や、感染症のリスク、ヒートショックの危険性など、高齢者が直面する健康課題が浮き彫りになりやすい時期でもあります。
「親はいつまでも親であり、元気でいてほしい」という子供側の願望(正常性バイアス)を一旦脇に置き、客観的な視点で観察することが、親を守るための第一歩です。
認知症のサインは「冷蔵庫」に現れる! 3つのチェックポイント
実家についたら、まずは「お腹すいたな、何かある?」と言いながら、さりげなく冷蔵庫を開けてみましょう。実は、冷蔵庫は家庭内で最も高度な管理能力が求められる場所であり、その中身は持ち主の脳の状態を映し出す鏡と言われています。
献立を考え、必要なものを買い、賞味期限内に使い切り、廃棄する。この一連のプロセスには、計画力や判断力といった脳の「遂行機能」と「記憶力」が不可欠だからです。
賞味期限切れの食品と「時間感覚」のズレ
冷蔵庫の奥に、賞味期限が数ヶ月、あるいは数年も過ぎた調味料や加工食品が眠っていませんか?
「もったいないから」と残している場合もありますが、あまりにも期限切れが多い場合は、認知症の中核症状の一つである「見当識障害(時間)」の可能性があります。今日の日付や時間の感覚が曖昧になり、賞味期限の数字を見ても「過去のもの」という認識ができなくなっているのです。
また、視覚的な注意力が低下し、そもそも賞味期限の表示が見えていない(認識できていない)ケースもあります。
同じマヨネーズが3本? 「買い置き」と「記憶障害」の違い
特売のたびに買ってくる「買いだめ」や「ストック」であれば問題ありません。しかし、使いかけのマヨネーズがあるのに新しいものを開封していたり、未開封の卵パックがいくつも積み上がっていたりする場合は要注意です。
これは、「買ったこと自体を忘れている」という「エピソード記憶」の障害である可能性が高いからです。
「マヨネーズを買った」という経験の記憶が抜け落ちているため、スーパーでマヨネーズを見るたびに「あ、家にないかもしれない」という不安や、過去の習慣(意味記憶)に基づいて購入してしまいます。
「なんでこんなにあるの?」と聞いた時に、「安かったから」と取り繕うか、「あれ? 誰が買ってきたんだ?」と驚くかによっても、症状の進行度合いを推測することができます。
腐った野菜と詰め込みすぎに見る「遂行機能」の低下
野菜室で野菜が溶けていたり、カビが生えた食品が放置されていたりする場合、それは単なるズボラではなく、危険を察知して回避する判断力の低下や、嗅覚・視覚の衰えを示唆しています。腐敗臭に気づかない、あるいは気にならなくなっている状態は、生活を維持する機能が著しく低下しているサインです。
また、隙間がないほど食品が詰め込まれている状態は、何をどれだけ持っているかを把握できなくなる「遂行機能障害」や、不安から物を溜め込んでしまう「強迫的収集(ホーディング)」の傾向が出ているかもしれません。
調理されない食材が溢れているということは、料理という複雑な工程(献立を決め、手順を組み立て、実行する)が億劫になっている、あるいはできなくなっている証拠でもあります。
実家の「散らかり」と「寒さ」は危険信号。生活環境の異変
冷蔵庫の次は、家全体の様子を見渡してみましょう。かつては綺麗好きだった親の部屋が散らかり始めていたり、不衛生になっていたりする場合、そこには深刻なSOSが隠されています。
部屋が荒れてきたら「セルフネグレクト」を疑う
足の踏み場もないほど物が散乱している、ゴミ出しができていない、異臭がするといった状況は、「セルフネグレクト(自己放任)」の兆候かもしれません。
これは、認知症やうつ病、あるいは配偶者との死別による精神的なショックなどがきっかけとなり、生きる意欲や自分自身をケアする能力が失われている状態です。
「だらしなくなった」と親を責めるのではなく、脳の機能低下によって「片付ける意欲が湧かない」「片付けの手順がわからない」状態に陥っているのだと理解する必要があります。特に前頭葉の機能が低下すると、物事への関心が薄れ、衛生環境の悪化に対しても無頓着になる傾向があります。
お風呂に入っていない? 入浴拒否の裏にある心理と身体機能
「お風呂、沸かそうか?」と聞いた時に、「今日はいいや」「昨日入ったから」と頑なに拒否されることはありませんか? 親から体臭がしたり、髪がベタついていたりする場合、長期間入浴していない可能性があります。
高齢者にとって入浴は、服を脱ぐ、体を洗う、浴槽をまたぐといった動作が必要な重労働です。
「面倒くさい」という意欲の低下に加え、「浴槽をまたぐのが怖い(身体機能の低下)」「服を脱ぐ手順がわからなくなる(失行)」といった理由が隠れていることもあります。また、「自分は汚れていない」という認識のズレが生じているケースも少なくありません。
室温管理ができていない? ヒートショックと感染症のリスク
実家が極端に寒かったり、暖房をつけていなかったりすることはありませんか?
高齢になると、皮膚の温度センサーの感度が鈍り、寒さを感じにくくなります。室温が10度を下回るような環境でも平気で過ごしていることがありますが、これは低体温症や免疫力の低下を招き、肺炎などの感染症リスクを高めます。
また、暖かい居間と、寒い脱衣所やトイレとの温度差は、血圧の急激な変動を引き起こす「ヒートショック」の主原因となります。
「もったいない」という節約意識だけでなく、身体的な感覚機能の衰えによって、適切な室温管理ができなくなっている可能性を考慮し、温度計を設置したり、脱衣所にヒーターを置いたりするなどの物理的な対策が必要です。
親の足腰は大丈夫? その場でできる「指輪っかテスト」でフレイル確認
認知機能だけでなく、身体的な虚弱(フレイル)のチェックも重要です。筋肉量が減少し、身体機能が低下すると、転倒や骨折のリスクが高まり、それがきっかけで要介護状態になることも少なくありません。
そこで、帰省中に家族でゲーム感覚でできる「指輪っかテスト」を試してみましょう。
ふくらはぎの太さでわかる筋肉量(サルコペニア)
「指輪っかテスト」は、特別な器具を使わずに筋肉量減少(サルコペニア)のリスクを判定できる簡易チェック法です。
方法は簡単です。両手の親指と人差し指で輪っかを作り、親の利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分を囲んでみてください。
もし、指の輪っかでふくらはぎが囲めてしまい、さらに隙間ができるようであれば、筋肉量が著しく減少している「サルコペニア」の可能性が高いと言えます。
逆に、指が届かない、あるいはちょうど囲めるくらいであれば、筋肉量は保たれています。
この結果をもとに、「少し筋肉が落ちているみたいだから、一緒に散歩しようか」と運動を促すきっかけにすることができます。
階段の上り下りと歩く速度の変化
家の中での動きも重要な観察ポイントです。
階段を上る際に手すりを強く握りしめている、一段ずつ両足を揃えて上り下りしている、あるいは平らな場所ですり足で歩いているといった様子が見られたら、下肢筋力やバランス能力が低下しています。
歩行速度の低下は、将来的な認知症リスクや健康寿命と強く相関することがわかっています。以前よりも歩くのが遅くなったと感じたら、それは加齢のせいだけではなく、フレイルのサインかもしれません。
会話の違和感をスルーしない。「年のせい」と「認知症」の境界線
こたつでみかんを食べながらの雑談も、重要なチェックタイムです。話がかみ合わない、同じことを何度も聞かれるといった違和感を、「年だから仕方ない」とスルーしていませんか?
加齢による「物忘れ」と、認知症による「記憶障害」には明確な違いがあります。
「あれ」「それ」ばかりで名詞が出てこない
「ほら、あれだよ、あれ」と指示代名詞が増え、具体的な名前が出てこないことは誰にでもあります。しかし、ヒントを出しても思い出せなかったり、テレビのリモコンを「チャンネルを変える機械」のように遠回しな言い方(迂言)をしたりする場合は、言葉の意味や概念が薄れる「意味記憶」の障害や、言葉を呼び出す機能の低下が疑われます。
さっきの話を覚えていない(エピソード記憶の欠落)
最も典型的なサインは、数分前に話したことを忘れて、同じ質問を繰り返すことです。
加齢による物忘れは、「朝ごはんのメニューを忘れる」ことはあっても、「朝ごはんを食べたこと」自体は覚えています。これを「良性健忘」と呼びます。
一方、認知症の場合は「朝ごはんを食べた体験そのもの」が記憶から抜け落ちています。そのため、本人にとっては「初めて聞く話」であり、「食べていない」という認識になります。
「さっきも言ったでしょ!」と指摘したくなる場面ですが、本人に悪気はなく、指摘されることで混乱し、自信を喪失してしまいます。
季節感のない服装や話題
「お正月だね」という会話から、季節感のある話題が続くかどうかもポイントです。
認知症が進むと、時間や季節の感覚(見当識)が薄れます。真冬なのに薄着をしていたり、夏の話を始めたりといったズレが見られることがあります。
また、以前は穏やかだった親が急に怒りっぽくなったり、逆に大好きだった趣味に関心を示さなくなったりといった「性格の変化」も、前頭側頭型認知症や老人性うつの兆候である可能性があります。
もし「異変」を感じた時に。否定せずに「守る」ためのアクション
帰省中に親の異変に気づいた時、ショックや不安から、つい強い口調で指摘したり、無理やり正そうとしたりしてしまいがちです。しかし、焦りは禁物です。親のプライドを傷つけず、適切な支援につなげるための心構えを知っておきましょう。
「なんで?」と怒るのはNG。バリデーション療法で感情に寄り添う
冷蔵庫がパンパンでも、同じ話を繰り返されても、決して頭ごなしに否定したり叱ったりしてはいけません。認知症の人の言動には、その人なりの理由や感情があります。
ここで役立つのが「バリデーション療法」の考え方です。事実はどうあれ、まずは親の感情を受け入れ、共感することから始めます。
例えば、同じものを買ってきたなら「無駄遣いして!」と怒るのではなく、「これがあると安心なんだね」と感情に寄り添います。財布がないと騒いでいたら、「盗られたわけないでしょ」と否定せず、「大切な財布が見当たらないのは不安だね、一緒に探そう」と声をかけます。
共感されることで親は安心し、攻撃的な態度や不安症状が落ち着くことが多いのです。
心配だからこそ「地域包括支援センター」へ相談を
親の異変を感じたら、自分たちだけで抱え込まず、プロフェッショナルに頼ることが重要です。その最初の窓口となるのが、実家の地域にある「地域包括支援センター」です。
ここは高齢者の健康や生活に関する「よろず相談所」のような場所で、社会福祉士や保健師などの専門家が常駐しています。
帰省中に、「離れて暮らす親の様子が少し心配で」と電話を入れるだけでも構いません。介護保険の申請が必要かどうかの判断や、地域の見守りサービスの紹介など、具体的なアドバイスをもらうことができます。親が病院に行くのを嫌がる場合も、どのように受診を促せばよいか相談に乗ってくれます。
スマートに見守る。テクノロジーの活用
離れて暮らしていると、どうしても日々の変化には気づきにくいものです。そこで、帰省を機に「見守りツール」の導入を検討してみるのも一つの手です。
最近では、カメラのような監視的なものではなく、冷蔵庫の開閉やポットの使用状況をアプリに通知してくれるセンサーや、電球に取り付けるタイプなど、プライバシーに配慮した見守り家電が増えています。
「お母さんが倒れていないか心配だから、これをつけてもいい?」と、あくまで「子供側の安心のため」というスタンス(アイ・メッセージ)で提案すると、受け入れてもらいやすくなります。
まとめ:気づくことは、愛すること。
親の老いを受け入れることは、子供にとっても辛いことです。しかし、帰省中に見つけた「小さな異変」は、親からの助けを求めるサインであり、これからの生活をより安全で穏やかなものにするための重要な手がかりです。
違和感を「気のせい」にせず、冷蔵庫、部屋、会話の3点チェックを通して、親の健康状態を客観的に見つめてみてください。そして、もし不安を感じたら、否定せずに寄り添い、専門家の力を借りながら、親子の新しい関わり方をスタートさせていきましょう。
このお正月が、ご家族にとって温かい「見守り」の始まりとなりますように。
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